第22話 マッサージ二回目。

 朝食後、アレン達は昨日に引き続きマナの流れを正すことで魔法を使えるようになると言うマッサージをおこなっていた。


 ホランドの場合。


「昨日よりかは痛く……あいいたたたた!!」


「我慢しろ! 昨日に比べたら痛くないはずだから!」


「! ご……誤差のレベルしか変んないいいいいいいいいい! 待って! 待って! 死んじゃう! 死んじゃう!」


「俺がやっているんだ、死なない! いや、死ねないから安心しろ!」


 リンの場合。


「リンは今日も痛いか?」


「あん……確かに昨日に比べたら……あぃん、やっぱり」


「やっぱり駄目か?」


「あっああ、ごめんなさい。ごめんなさい。やっぱり、駄目来ちゃう! だめ……あぁ……いいくうううう。ああぁぁぁん」


 *注 マッサージしているだけです。


 ノックスの場合。


「痛いか?」


「今日も気持ちいいだけッス」


「そっか、良かったな」


「本当に……良かったッス」


 ユリーナの場合。


「あぅん……昨日よりも慣れたかも。あ……ん……いい」


「そういえば、ユリーナは何か魔法の使用感に変わったところはあるか?」


「あ、あっ……はい。魔法の発動までの時間が早くなったぁ」


「そうか、それは良かった」




 マッサージを終えて一時間が経った頃。


 アレン、ノックスの二人は昨日ユーステルの森を探索している時に見つけた湖に出掛けていた。


 ちなみにホランドとリン、ユリーナはマナの流れを正す治療によってぐったりしていたので、召喚魔法で喚んだノヴァを見張りにおいて野営していた洞窟で休ませている。


 湖はかなりの広さがある。


 水は透き通るほどに美しく、川底の魚が見てとれる。


 ただ浅いところでは足の甲あたりの深さながら、湖の中央部はかなり深く上から見ただけでは深さが分からないほどであった。


 アレンは自分の体と同じくらいのバッグを持ちながらも一際大きな岩に飛び乗って周囲を眺めていた。


「綺麗な湖だな。魚もいっぱいだ」


「魚がいっぱい見えるッスね」


 ノックスは慣れていない岩場に荷物を持ちながら、ゆっくりアレンの後を付いてきていた。


 アレンは湖に流れ込んでくる川に視線を向けて口を開いた。


「今度、この湖に流れ込んでいるあの川の上流に向かってみるのもいいな」


「それいいッスね。あ……遠くに見える砂場に荷物を置かないッスか?」


「お? そうだな。よさそうだ。よっと」


 アレンはノックスの提案に頷くと、砂場に向かって岩の上を軽々とぴょんぴょんとジャンプしていく。


 アレンの身軽な動きに若干引き気味の表情で、アレンの後ろ姿を目にして呟く。


「な、なんで、そんな身軽なんッスか?」


 ノックスはへとへとになりながら何とかアレンに追いついて背負っていたバッグを砂場に置く。ノックスの様子を目にしたアレンは苦笑する。


「なんだ? もう息が上がっているのか?」


「はぁはぁお待たせしたッス」


 アレンはと言うとすでに砂場でバッグの中から、釣り道具を取り出していた。そして、ホランドが作った釣竿を組み立てて、ノックスに差し出す。


「さて、釣りするか?」


「釣るッス」


「今日は魚が食べたい気分だからいっぱい釣りたいな」


「いっぱい釣るッス。余ったら干物にすればいいッスね」


「余るかな? ノヴァが居るから……」


「ならば、余計に多く釣らなきゃッスね」


 ノックスは魚を取ると意気込んで湖へと視線を向けた。それから、アレンとノックスの二人は湖に仕掛けを投げ入れて、釣りを始めるのだった。




 アレンとノックスが釣りを始めて二時間が経とうしていた頃。


「うお! 引いた!」


 釣竿がビクビクっと振るえると、アレンは声を上げた。


 アレンの持っていた釣竿がしなったのを目にしたノックスは自身でもっていた釣竿を脇に置いて座っていた岩から立ち上がる。


「アレンさん絶好調七匹目ッスか!」


「おぉ、コイツはすごく引くな」


 アレンは釣竿をグッと引いた。すると釣竿が大きくしなる。


 湖の水面では三十センチくらいの黒い魚影が見え隠れして、水面が大きく揺れている。


「アレンさん、ゆっくりッスよ」


「ぐう、そうだな」


 アレンはゆっくりと後ずさりながら、魚を岸辺に引き寄せていく。


「もう少しッス」


 岸辺ではノックスが空になった桶を片手に、アレンの釣っている魚を待ち構える。そして、三分ほどの魚との激闘の末に、釣りあげることができた。




「ふぅー何とか」


 釣竿を脇に置いたアレンは大きく息を吐いて座り込んだ。


 そのアレンの元にノックスが魚の泳いでいる桶を持って近づいてきた。


「おぉ、今日一番の大物ッスね」


「それは良かった。釣竿が折れるかと思ったよ」


「そうッスね。まぁ、即席で作った釣竿だから仕方ないッスね」


「そうだな。さてさて、俺とノックスが釣ったのを合わせて十匹か……もう少し欲しいな?」


「確かに……あと五匹はないと喧嘩になるッスかね?」


「目標はあと十匹だな」


「十ッスか。じゃ、俺も頑張らないとッスね」


「そうだな……もう少し頑張らないとなぁ」


 アレンとノックスは先ほどまで座って釣りをしていた岩に腰かけ、釣りを再開した。


 釣りを再開してふと視線を上に向けたアレンが少し険しい表情を浮かべる。そして、ブツブツと呟き始める。


「もう二十いるかも知れないなぁ……いや、何か食糧になりそうな魔物をとらえておいた方が良いか? 今日は一日休息日にする予定だったがそうは言っていられないかもしれないか?」


 アレンの表情が突然険しくなったのをノックスが怪訝な表情を浮かべる。


「どうしたッスか?」


「雲の流れが速いなぁ。もしかしたら……明日雨が降るかも知れん」


「そうッスか?」


「とりあえず……昼までは釣りをして。午後からはホランド達には洞窟の掃除と調理場に使っていた場所に簡易の屋根を立ててもらおう。それでお前には悪いが、俺と一緒にユーステルの森を軽く探索兼食料確保に行った方が良いかも」


「もし雨になったら……大変ッスよね。そう言えば、あの洞窟って雨は入ってこないようになっているんッスかね」


「……どうだろう? 洞窟は緩い登りの傾斜がついていたから大丈夫だと思うが……そこもホランド達に見てもらうか」


「そうッスね」


 それから、昼食前まで釣りを続けるとアレンとノックスは釣りをやめて戻ることになった。



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