第13話 森歩き。
アレン、ホランド、リン、ユリーナ、ノックスの五人がユーステルの森の中へ入って二時間。
まだ昼過ぎだと言うのに薄暗い森の中で、松明とユリーナの魔法である【ライト】によって生み出された光の玉で視界を確保しつつアレン達は隊列を組んで歩いていた。
ちなみに隊列はアレンを先頭にホランド、リン、ユリーナ、ノックスの順番であった。
アレンは歩きながら、後ろを歩くホランドと話していた。
「ホランドも敬語とかいらないぞ? 今の俺は別に偉くないし」
「いいえ、できませんよ。正直、アレンさんに様を付けないのもすごい違和感があるくらいです」
「……もう好きにしていいが。それで、ホランド達は今までどんなのクエストをやってきたんだ?」
「俺達はサンチェスト王国の東にある中都市ライゼンバーグの街を拠点にしていて……基本的に街の周りに出現する魔物を狩るクエストをこなしながら、月一くらいの頻度でC級~B級の魔物が多く集まる魔物の領域ダンムンクの森やジンドームの地下ダンジョンへ遠征してクエストをこなしていました」
「ふーん、じゃC級~B級の魔物ならば問題ない訳だな」
「状況にもよりますが……。C級は大丈夫です。ただB級はそれなりに準備がいると思います。それがどうされましたか?」
「いや、そうか、この森には……かなり奥の方にまぁまぁ強い魔物がいるようだから……お前達もここで住むなら強くならないとな」
「え……そうなんですか? 俺がユーステルの森のことを調べた時にはそのようなことは書かれていなかったと思いますが」
「ちゃんと調べていたんだな」
「一応地理は一応行く先の周辺の情報を図書館やギルドで調べました」
「そうか、俺が言うまぁまぁ強い魔物はかなり奥の方にいるから出くわさずに済むと思うが、気を抜かないようにな」
「あの……念のために聞いておきたいんですが。そのまぁまぁ強い魔物というのは……どのくらいの強さなのですか?」
ホランドの問いかけにアレンはユーステルの森の中を見回す。そして、あいまいな感じで答える。
「んー少なくともA級以上の魔物かな?」
「え……A級以上の魔物!」
「私達ではまだ……とても」
「そんな……」
「A級以上の魔物……そんな化け物がこの森にッスか?」
アレンの言葉を聞いてホランド、リン、ユリーナ、ノックスが順に驚愕の声を漏らした。
「だいぶ奥の方だけど。……そうだな、お前らも早く強くならないとな」
「ハハ……そうですね」
ホランドは表情を引き攣らせながら笑って見せた。
そして、ホランドの後ろに並んでいるリン、ユリーナ、ノックスの表情は硬かった。
「あんまり固くなるなよ。安心しろ。俺が居れば大丈夫だから」
アレンの言葉を聞いてホランドを含めてリン、ユリーナ、ノックスは胸を撫で下ろす。
ただ、ホランドだけは更に別の感情を抱いていた。
A級の魔物を討伐するには……S級の冒険者パーティーもしくはA級の冒険者パーティー三組が最低でも必要と言われている。
つまり、アレンさんは……たった一人で最低でもS級の冒険者パーティーと同等だと言ってのけたのだ。
普通の奴が言ったなら鼻で笑われてしまうだろう。
しかし、俺は可笑しいと思うどころか、心の底から安心していた。
アレンさんの言葉にはそれだけ重みがあった。
それは絶対的な強さと自信、経験から来るものなのか?
俺には想像もできない。
昔から憧れていた俺の英雄は……実際に会ってみると本当に想像を超えた人であったことがすごく嬉しかった。
ただ、同時に俺の中に一つ引っかかることができた。
それは……アレンさんが居なくなったサンチェスト王国から早く避難するようにと親に知らせを送れなくなったことである。
王国は……失ってはいけないものを失ってしまったと俺は感じられずにはいられなかった。
ホランドが心の中で暗い思いを抱えていると、アレンが口を開いた。
「A級以上の魔物が来ても大丈夫だが……まずは水を確保したいな。確かにローリエからもらったのもあるが……どんなに節約しても五人だと二、三日が限界そうだし」
「……」
「ん? どうかしたか?」
「は、いえ……そ、そうですね。まず、水ですね。食糧は果物とか豊富にそう見えるんで生きていく分には問題ないでしょうし」
「まぁ……食糧はなぁ。何とかなるわな。水源近くに住むのに適した場所があればいいけどな」
「そうですね。できたら、魔物が仮に来ても戦いやすい場所が良いよね」
「だな。魔物の住む森だ。少なくとも見張りは必要だな。見張りがしやすい場所か」
「はい。アレ? そういえばアレンさんは一人で森に入ると言っていましたが……見張りとかってどうするつもりだったんですか?」
「ん? あぁ……俺はド田舎生まれだし、兵団で森の中で戦うことが多かったから寝ていても誰か近づいて来たら起きれる。ただ完全に熟睡はできないからずっとはちょっとキツイんだけどな」
「……すごいですね」
ホランドは驚き……若干、表情を引き攣らせていた。対してアレンは首を傾げた。
「いや、冒険者にはもっとすごい森歩きのプロがいるだろう。確か……ロンダール、ジルとか言ったかな……そいつらに比べたらまだまだだろう?」
「ロンダール……ジル……というのはS級の冒険者のロンダール・タンバとジル・バーゼストのことですか?」
「へぇ、アイツらがS級の冒険者になっていたのか? 一度、森の案内で雇った時はA級の冒険者だったのに」
「はい。確か……五年前にS級に上がっています」
「へーそうか、知らんかった」
アレンが顎に手を置いてしみじみと呟いた。すると、ホランドの後ろを歩いていたリンがアレンに問いかけた。
「あの……ロンダールさんとジルさんってどんな人?」
「ん? ロンダールとジルがどんな奴だったか? 俺はあんまり深く関わらなかったから特に印象はないな。ただ調子に乗って……副長のラーセットにボコボコにされていたのを覚えている」
「え?」
リンはキョトンとした表情で首を傾げた。
「確かラーセットの天幕に忍び込もうとしたんだ」
「それは……」
リン、そしてその後ろのユリーナの表情が険しいものに変わっていく、その二人の表情から察するにロンダールとジルへ対する好感度はダダ下がりしているようだった。
ただ、ホランドとノックスは表情を曇らせて黙った。
「まぁ……ラーセットの天幕に行こうとしてちゃんと生きていたってことは見込みがあったのかも知れないな。ラーセットはなぁ……そこんとこ手加減とかないから毎年何人かの兵団員を戦闘不能にするんだ。団長の俺としてはもうちょっと手加減して欲しかったんだが……ハハ」
「いえ、ラーセットさんは正しい。手加減なんて必要ありません。断罪すべき」
「ふすん、当然のこと。断罪」
アレンがラーセットのことを口にしたところで、リンとユリーナがきっぱりと断言するようにラーセットの肩を持つ。
アレンはリンとユリーナの言葉を聞いて苦笑するしか出来なかった。
「そうッス! アレンさんなら、最終的には……この森の魔物をぜんぶ倒して自分の土地にするってのもできるんじゃないッスか?」
隊列の一番後ろにいるノックスから声が聞こえてきた。おそらく、彼は話題を……そして空気を変えようしての行動だろう。
ノックスの声を聞いて、ホランドが苦笑しながら答えた。
「ハハ……それは目立つだろ。仮にアレンさんができたとしてもここは一応帝国の領地だぞ?」
「は? このユーステルの森って帝国の領地なのか?」
アレンが、ホランドの何気なく言った言葉に反応して問いかける。
「はい。しかし、魔物がいると言うことは主張しているだけだと思いますが」
「主張だけな。自分を大きく見せたい大国の意地のようなものだろうか? この森は魔物の気配があっちこっちにっと!」
アレンはいつの間に抜いていたナイフを木と木の間の草むらへと投擲した。
ぽすっと草むらにナイフが入っていくと、草むらの奥から獣の断末魔のような声が鳴り響いた。
「ぎゃぁあああああああああああ」
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