第8話 対魔法


「ふうー……」


 長く息を吐いたアレンは構えていた長槍を上空に突き上げた。


 長槍の矛先からヒュンっと風を切る音を響かせる。


「確か……アイツはこんな感じで使っていたか」


 上空に長槍を突き上げ続けて……。


 長槍から響く風を切る音が徐々に……徐々に……速さが増していき、鋭さが増していく。


「【空突(くうとつ)】」


 アレンは【空突】と呟く。


 アレンが持っていた長槍とアレンの右手がぼやけるように姿を消して……。


 次の瞬間、ドンッ!! と空気を震わせる重々しい音が辺りに響く。


 長槍の矛先から圧縮された空気がいくつも放たれて……火の玉と衝突し完全に火の玉を消滅させていく。


「「「「……っ!!」」」」


「んー、ホーテの【空突】の方がもっと鋭かった気がするんだよなー」


 突然の出来事に四人組は目を見開いて驚く。


 アレンは長槍を振り抜いて、どこか不満げな様子でブツブツと呟きながら……長槍を突くときの動作を確認していた。


 そんなことをしていると、追加でさらに多くの火の玉が飛んでくる。


 しかし、その火の玉もアレンの【空突】によって、すべて消滅していった。


「んーキリねぇな。術者はどこだよ」


 アレンは火の玉を防いでいるものの、火の玉で攻撃してくる魔法使いを見つけ出すことは出来ずにいた。


 それだけ魔法使いとしての力量が高いことを、アレン自身感じ取っていた。


「なんで……俺達を助けて」


 倒れていた四人組の一人、片手剣を持っていた男性がアレンに問いかけた。


「仕事……いや、俺は軍をクビになったんだよなぁ。じゃなんでだ? んーんー」


「……?」


「あ……そうだ。そうだったな。なんで忘れていたかな? ハハ」


 アレンはあごに手を当てながらんーんーっと考えていたが、何か思い付いて小さく笑った。


 そして、片手剣を持っていた男性に視線を向けた。


「これが俺の憧れた生き様だからな。まぁ、安心して寝ていろ……って」


 アレンはバッと上を見上げた。


 アレンの視線の先には一際大きな火の玉が出現していた。


 魔法でアレンを狙っている魔法使いは、小さな火の玉をいくら打ち込んでも完全に防がれている状況にキリがないと判断して勝負に出たのかもしれない。


「これは【空突】じゃだめか?」


 アレンは上を見上げて呟いた。


 アレンの言うように【空突】では防ぐことはできない規模……直径二十メートルほどの巨大な火の玉であった。


 ただ、気になるの……その大きな火の玉を前にしても、アレンは落ち着いていて……その場から動くことはない。


 不意にアレンは持っていた長槍を地面に突き刺すと、しゃがみ込んだ。そして、落ちていたソフトボールほどの石を手に取った。


「【空突】では防ぎきれないか……しかし、この魔法は……不安定な感じがする。魔法の術者は相当に無理をしているんじゃないかな? 強い魔法になればなるだけ、扱いが難しいんだよな。その不安定な魔法に何か……例えばこの石でも放りこんだら形を留めておけずに崩れちゃうんじゃないかな? ……と」


 アレンは屈んで、その場に落ちていた石を拾い上げる。


 そして、ぐーっと振りかぶって、石を思いっきり大きな火の玉へ投げ込んだ。


 石がのみこまれると、アレンの言葉通りに大きな火の玉の形は崩れてバラバラな状態で広範囲に降り注ぐ。


「うわーこれは環境破壊だな……っと俺の方にもやっぱり【空突】で十分だったか」


 アレンの周囲にも大きな火の玉からバラバラになって小さくなった火の玉が降り注ぐ。


 ただ、その小さくなった火の玉ならば、アレンは【空突】で簡単に防いでしまった。


 その時……。


「……【シールド】」


 アレンの後方で、微かに【シールド】と魔法を唱える音が聞こえてきたのだ。


 アレンはその魔法詠唱を聞き逃さなかった。


「あっちか」


 アレンは魔法詠唱が聞こえてきた方に視線を向けると、長槍を引き抜いて地面を蹴って走り出した。


 アレンが向かった先には、岩の物陰に隠れるように青髪の女性がいた。


「見つけた」


「……っ」


 青髪の女性は火の玉を透明な壁で防いでいる最中で、アレンが姿を現して目を見開いて驚いているようだった。


 それでも、彼女はアレンの方に向けて新たに魔法を放とうとした。


 しかし、その魔法の準備よりも早く、アレンが距離を詰めて彼女の首もとに長槍の矛先を突き立てた。


「……まいったか?」


「ま、まいりました」


「魔法使いとしての筋が良いが。もう少し距離を詰められた時の対処法を考えておいた方が良いぞ? 兵団にアリソンという魔法使いがいるが。アイツは魔法によるトラップも一応できたし、ナイフの使い方だってなかなかのもんだった」


「ぐ」


 アレンのおせっかいにも見える忠告に、青髪の女性は悔しげな表情をにじませて、唇を噛んだ。


「おっと、悔しがる前に……」


「な、なによ。さっさと……こ、殺しなさいよ」


「俺は無駄な殺生はしないよ。いや、今はそんなことより森に火が回りそうだから、消すぞ。話はその後だ」


 アレンは有無を言わせぬと、と言った感じで青髪の女性の首襟をつかんだ。


 それから、アレンの指示で青髪の女性と四人組の中で魔法を使えた女性を連れて、火の玉から引火した木々の消火に回ったのだった。


 ◆





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