第6話 裏側。


 ◆


 アレンがベラールド王国に向けて歩き出したのと同時刻。場面が変わって、ここはサンチェスト王国の王宮内にある軍総司令の執務室である。


 金のかかった豪勢なデスクやソファ、テーブル等が置かれていた。


 今、その執務室では対面するソファに二人の男性が向かい合うように座っていた。


 一人はサンチェスト王国の軍総司令であるベロウス・ファン・バリウドスである。


 ベロウスは金色の髪を角刈りにし、軍服を身に纏っていた。


 ただ、肥満体系で軍服がパンパン膨れ上がっている。


 そして、もう一人はサンチェスト王国の宰相であるホソード・ファン・ガラード侯爵だった。


 ホソードは不健康に見えるほど痩せ形の男性であった。


 豪華な服を身に纏い、高価そうな宝石の付いたアクセサリーをじゃらじゃらと着けていた。


「ホソード殿。紅茶はいかがですかな?」


「うむ……良いですな」


 ベロウスに進められると、ホソードはローテーブルに用意されていたティーカップを手に取る。


 そして、ティーカップに入って紅茶の香りを嗅ぐような仕草を見せると一口飲んだ。


 ベロウスは金の装飾がされた白い陶器のふたを開ける。その陶器の中には白い角砂糖がギッシリと詰まっていた。


「そうですか。紅茶好きと言われる貴方にそう言われると特別によい茶葉を用意したかいがありますな」


「紅茶は私に至福のひと時を与えてくれるんですよ。いやはや、この紅茶はなかなか」


「そこまでですかな。では帰りに茶葉を用意させますので、そちらもお持ち帰りください」


「おぉ……それは嬉しい」


「いえいえ、目障りだったアレンを排することができたのは宰相であるホソード殿が国王様に上奏していただいたおかげですからな」


 ベロウスはニタニタと笑みを浮かべながら角砂糖をつまむと、自身のティーカップに入っていた紅茶にいくつも入れていく。


「くく、何のことですかな? 私は事実を……火龍魔法兵団団長アレン・シェパードがサンチェスト王国内の守備防衛に関する秘密資料を他国に流していると言う情報を国王様にご報告したまでですよ」


「ほほ。まぁ、この店のクッキーは美味しいのでして受け取っていただけたらと思います……私としては今後ともホソード卿と仲良くしたいと思っていますので」


 ソファの横に置いてあったクッキー屋のロゴが焼印された木箱を目の前にあったテーブルの上に置いた。


 そして、その木箱をススッとホソードの前にまで持っていった。


「私は甘いものは苦手なのですが……そこまで言われてしまってわ。仕方ありませんね」


 ホソードは目の前に出されたクッキーの木箱のふたをカパッと開ける。


 木箱の中には金貨がギッシリと詰められていた。


 それを見て、ホソードが笑みを深めるとすぐにふたを閉めた。


「どうですかな。私が大好きなクッキーは気に入っていただけただろうか?」


「いやはや、なんとも美味しそうなクッキーですな。家に持ち帰って吟味したい」


「ハハ、そうですな。それがいい」


 クッキーの木箱を脇に置いたところで、ホソードはベロウスへと再び視線を向けた。


「しかし、ベロウス殿……本当によかったのですかな? 彼のことを調べると彼が団長を務める火龍魔法兵団は屈強であるとか? 軍として兵力を失うことにはならんのかね?」


「それは大丈夫ですな。火龍魔法兵団がなくなる訳でもないのです。それと火龍魔法兵団の戦歴を調べるとほとんどは副長の功績であって、アレンはお飾りに過ぎんのですよ」


「なるほど、しかし強い副長達を従えるにはそれだけ度量が必要になってくるかと……例えるならば今の私のようなことを考える者が出たり」


「ふふ、それも大丈夫ですな。アレンの代わりに火龍魔法兵団へは私の優秀な息子を送り込む予定ですからな」


「それは安心……となると防衛情報の流出は本来なら重罪……死刑だったところを商人上がりの貴族の一部が騒いで国外追放とした彼が生きているのは邪魔ですな」


「アレンの件に関しては、もちろん手は打ってありますよ。……にしても、商人上がりの貴族は分際偉くなったものですな」


「うむ。今までは金払いがよく見逃していたんですが。今回の件で私も思ったよ。国王様も新しくなったことですし不純な輩は排して、今後は貴族の純血を持つ者達がしっかりと王国を支配できるように見直すべきとね」


 やる気に満ちた様子のホソードは握り拳を自身の前に出した。


 すると、ベロウスがニヤリと笑みを浮かべてパチパチと拍手した。


「それはそれは、素晴らしい志ですな。そして……奇遇ですな。私も大いに共感するところなのです。実際に今回のアレンを排除したかったのはエルフの血の混血者が王国の国民達から英雄扱いさている現状に危機感を覚えたからです。国を守る軍は大きな志を持ち王国に生まれた純血の者を登用すべきと常々思っていたのですよ」


「あぁ、そうでしたか。では、我々は貴族と軍で垣根はあるものの同じ意思を持って王国をよりよくしたいと考える同士だったという訳ですな」


「そうなります」


「これから、軍が必要な時がありましたら力になりましょう。ホソード殿の為ならば」


「くく、それは心強いですな。では私も微力ながら力に成りましょう。よろしくお願いしますね」


「こちらこそ」


 ホソードとベロウスは互いに立ち上がると、固く握手を交わして笑みを溢した。



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