堕天した神のミミック冒険記
キセノン
第一話 冒険記の1ページ目
私の犯したとされるある出来事がこの
本当に些細なことであった、いや人間や獣人などから見れば大罪とも呼べるかもしれない。
☆
時はラムダル期1200年、私エクセラは家族殺しの罪で裁かれようとしていた。
「神界法に
私じゃない。絶対に私がやったわけではないのだ。だが今更何を言っても聞いてくれる者は居らず、私は苦虫を噛み潰す思いで天界追放を受け入れた。
「お前天界追放なんだってな。何であんなことしたんだよ。みんなお前に優しかったのに…。本当にお前は……。もう俺たちは会うことがないだろう。残念だ。」
心の籠ってないアザムの言葉が神裁場に響く。
「本当に私がやったわけでは無いんだ。信じてくれ…。」
「無理に決まっているだろう。お前の家族殺しの証拠は十分にある。それに今更信じろだと?お前はエクラスの命も奪ったんだ!何もかもお前のせいじゃないか。エクラスが死んだのも俺たち神族が天界の人々に疑いの目を向けられるのも全部お前のせいじゃないか!!」
今度はアザムの怒号が神裁場に響く。
エクラスとは私の妹の名で、当時アダムと契りを結んでいた。
「もう俺の前から消えてくれ…。いや、天界追放だから嫌でも消えるか。もう二度と顔を見せるな。」
そう言ってアザムは飛び去っていった。
そんなアザムの姿に私は何も言えなかった。いや言っても意味がなかった。私は無力だったのだ。いくら無罪を主張しようと所詮罪人の主張であった。
☆
「神エクセラへの刑を執行する。お前をこれから天界から下界-ラムダルへと追放する。何か言い残したことはあるか。」
執行人が問いた。
「…ありません。」
「ではこれから執行する。だが特例によりお前は人間ではなく聖具へと変わる」
「…え!?」
私は何も聞いていなかった。てっきり人間へと変わり下界で生活をするのかと思っていた。
しかし聖具への変換など聞いたことがない。
「どういうことですか!?私への刑は天界追放のはずです!誰がそんなことを言っ「最高神ラムダル様だ。」
食い気味に執行人が言った。
だが特例とはどういうことだろうか。本当にあのラムダル様が言ったのだろうか。
「ああ。儂が言った。」
突如背後から声が聞こえた。それはラムダル様のものであった。
「儂にはお前が下界で生活すると困る理由がある。だからお前に家族殺しという冤罪をかけ、天界を追放するのだ」
驚きのあまり声が出せなかった。つまり私は嵌められたのだとこの時初めて知った。
「刑を執行しろ。」
冷徹なラムダルの声が響く。
その瞬間ラムダルのほくそ笑む顔を見ながら私は天界を追放された。宝箱へと姿を変えられた状態で。
☆
時は過ぎて現在ラムダル期2400年。私はついに目を覚ました。
どういうことなのだろうか。私は宝具へと姿を変えられたはずなのに意識がある。私は今どういう状態にあるのだろうか。
『情報開示』
私は神だった頃の自身の情報を知れる魔法を使った。
しかし
『管理者としてアクセスできませんでした。よって情報開示は発動されませんでした。再アクセスを実行しますか?』
どうやら当たり前かもしれないが私は管理者権限も剥奪されたようだ。当たり前かもしれないが。とりあえず再アクセスを実行したが一向に『情報開示』は発動されなかった。
とりあえずこの場所を動こう。そう思ったが周りは暗く、何も見えない。
かと言って動かないわけにもいかないと思い私は動こうとした。しかし、足がおぼつかない。いや、ないに等しいほど足を動かす感覚がないのだ。私は今どのような状態なんだろう。果たして人間なのか、それとも宝具が動くという異様な状態なのか。
突然に私のその疑問は晴れた。
『情報開示を実行しました』
〔Lv.1 種族:宝箱種 名前:エクセラ 生物名:ノーマルミミック スキル:無し 所有物:なし 管理者権限:有り〕
私はミミックでもなければ一生の中で最も驚きに満ちた顔をしていただろう。
私は人間でも宝具でもなくミミックだった。それに加えてレベルもスキルも、所有物でさえも無い。全てラムダルの思惑通りだったのだろうか。
だがとりあえずなぜ歩けないのか分かった。しかしミミックはどう移動するのだろうか。
私はそんなことを考えていると、ミミックは跳ねて移動していたことを思い出した。追放前の記憶をもとに試行錯誤していると、ギィ ギィ という宝箱の蓋が開閉する音とともに跳ねることができた。それに加え蓋が開閉する際に外が見えた。
ここは…洞窟だろうか。普通は明かりがない状態では見えないのであろうが、魔物であるミミックだからかある程度の明るさで周りを見ることができた。
しかし洞窟ということは周りに何がいてもおかしくないというわけである。この開閉する音とともに跳ねて移動していてはいつかは敵と対峙することが容易に想像できる。私は再び熟考し、試行錯誤した。
☆
「どうにかできるようになったかな…。」
とりあえず私は音を立てずに移動できるようになった。それは匍匐に近い形であったが、音を立てながら跳ねて移動するよりはマシだろう。そして宝箱の蓋が自由に開閉できることと、一応声を出せることがわかった。恐らく当分会話することはないのであろうが。
恐る恐る周囲を見てみると、怪しい色に輝く鍾乳石の真下に宝箱が見えた。いや…これは魔鉱石であろうか。あまりみたことがなかったが魔鉱石の中でも最高位である赤黒い色だ。
私はその魔鉱石の真下にある宝箱に近づき宝箱を開けようとしたが開ける方法がないことに気づいた。しかしこれを逃すのは何か勿体無い気がする。
……跳ねればいいのか。私は自身の考えに従って跳ねるときに宝箱に当たって蓋を開けようとした。
危なくミイラ取りがミイラに、いやミイラがミイラ取りになるところだった。
私はミミック同士和解しようとしたが失敗した。相手にあるのは完全なる殺意であり敵意。本当は下界に来たばかりの私は格上相手に逃げるべきなのだろうが、これでも元神である。プライドが許さない。
「ここで私の成長の糧となっていただきます。」
そう入ったものの、私は戦う術を持っていない。敵の前で先程のように熟考するわけにもいかない。恐らく管理者としてアクセスする時間はないだろう。どうすれば良いか……。いや一つ丁度いいものが敵の真上にあるではないか。
私は自身の考えに従って高く跳ね上がり、魔鉱石へと体当たりをした。その結果魔鉱石は折れ、敵へと突き刺さった。あれ程高位の魔鉱石を壊したのは少し心残りではあるが、命には変えられない。そう考えているうちにミミックは光の粒へと変わり、上へと消えていった。すると突然管理者画面が開いた。
〔ラムダルミミック Lv.103を討伐しました。〕
今のミミックはラムダルミミックというのか。私は不思議とラムダルへの怒りが少し和らいだ。
〔レベルが上昇しました。Lv.1→Lv.89へと上昇。 業火の
〔モンスターハウス、ラムダルミミック又はパンドラミミックへと進化できます。〕
選べるの…かな?モンスターハウスは大きな非移動型の魔物と知っている。ラムダルミミックは今のミミックで間違いないであろう。パンドラミミックは…。これについては私は何も知らない。私たち神…私に関しては元神だが、それほど細かくこの世界に興味があるわけではない。管理するという立場なだけでありあまり細かくは見ていないのだ。
こうして私はパンドラミミックへと進化した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます