第23話 勇者

 紅達は何とか撤退に成功した。 

 だが、魔王軍の侵攻は各地で始まり、多くの村が失われ、多くの難民が出ていた。

 紅はエミールと共に王城へと呼ばれていた。

 「先の遠征。まことにご苦労でありました」

 王は労を労う。それに深々と頭を下げる両名。

 「今回は遠征の報告を聞きたいだけじゃない。実はこの度の遠征を受けて、円卓会議が行われ、ある重大事項が決定したのだ」

 王の言葉に両名は神妙な面持ちで聞く。

 「実は・・・勇者の召喚儀式を行う事になった」

 「勇者ですか?」

 エミールは驚いた顔をしている。紅は何の事か解らぬが、エミールの驚きからとても重大な事だと察した。

 「ふむ・・・さすがに魔王軍の侵攻を現有戦力で阻止する事は不可能。このままではこの国だけじゃなく、世界が悪魔と魔獣に蹂躙されるだろう。だから、奇跡に賭けようと思うのだ」

 「勇者召喚儀式は伝説と呼ばれ、行うには多くの魔導士の命が必要だとか」

 「ふむ。10名の魔導士の生命力と引き換えに勇者を召喚する。すでにその任に自ら挑んでくれる魔導士も居る」

 「やるのですね」

 「左様。これに失敗すれば、我々に後は無いと考えている」

 王の決意は表情から伺えた。

 「解りました。それで我々は何を?」

 「話が早いな。エミール殿には儀式の立ち合いをお願いしたい。儀式はほぼ、完璧に再現が可能なまでに仕上げたが、高位の魔法知識のある者達に立ち会って、より完璧にしたいからな」

 「わかりました。微力ながらお力添えします」

 エミールは深々とお辞儀をして、両名はその場から去った。


 謁見の間から出たエミールに紅が尋ねる。

 「勇者召喚儀式とは何か?」

 「勇者・・・数百年前に突如として、この世界に現れた者。彼を召喚する為に当時、最高位の魔導士が全ての知識と力を総動員して、儀式を編み出し、彼と彼の弟子たちの命を引き換えにしたのよ」

 「ほぉ・・・それで勇者とはどのようなお方なのか?」

 「あまりに古い話で伝承でしか残されていないけど、剣で魔獣どころか悪魔さえも切り殺したとされるわ。彼は当時の魔王を切り捨て、この世界に平和をもたらしたとか」

 「凄いお方ですね。今回もその方を召喚するわけですね」

 「そうなるわね。ただ・・・伝説でしか語られない話だから、成功するかどうかも怪しいけどね。だけど・・・実際に悪魔に遭遇して、解ったわ。普通じゃ、勝ち目が無いってね」

 「確かにあの者は並の力では討てぬ存在」

 紅も自らの持つ武具の殆どが通用しない事は確認済み。多分、いかなる武具も悪魔には通じない。そういう存在だと認識した。彼女は幽霊などはまったく信じないのだが、仮に幽霊が存在するとしたら、多分、悪魔もその類であろう。だらか、倒すには陰陽師や僧侶みたいな連中しか無理なのではと想像した。

 「とにかく儀式は三日後なので、その間に、私たちは新たに遠征に出る準備を整えるわよ。勇者が召喚されたとなれば、魔王軍討伐は本格的に始まるから」

 「承知しました」

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異世界くノ一 三八式物書機 @Mpochi

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