第4話:血液型の街3
部屋の中にはベッドと机と椅子が置いてあった。洗面台にトイレもあった。悪くない。とりあえず、トイレシートを敷いてくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「ねえ、シュー」
「なんだい」
「キスしたの?」
「ブッ」
シューは吹き出した。オイラの質問が予想外だったのだろう
「そんな吹き出さなくても」
「い、いきなり変な事聞くから」
「変なことかな?」
「不躾だよ」
シューは腕で口を拭っていた。オイラの人間の知識では、タオルか何かで拭うのだが……腕がべちょべちょで汚く見えた。
「人間って難しいな」
「まだ慣れてないの?」
「慣れの問題ではないよ。一度身に付いた思考や行動は治らないものだよ」
「ただのモノグサだよ」
「そうかな」
「そうだよ」
シューは物憂げだった。なにか考え事をしている様子だった。
「そんなことより、どうするの?」
「どうする、って」
「彼女のことさ。わかってるだろ」
「ああ、それか」
「彼女、本気だよ。たぶん」
「僕はね……」
シューはベッドに座りながら続けた。
「……断ろうと思うんだ」
「どうしてだい?」
「そういう主義だからさ」
「どういう主義さ?」
「その場所には関わらない主義さ。その場所その人にはそれぞれの考え方がある。そこに変に介入したら、新たな問題が起こる。」
「それとこれとの関係は?」
「彼女に介入したら、新しい問題が起こるということさ。今抱える問題を解決したとしても。だから、だから彼女はここにいるほうがいいと思う」
「なんだいそれは?それこそモノグサだよ」
「モノグサで結構」
「あー、開き直った」
シューはベッドに寝転がった。おいらはその上に乗っかろうと、ベッドの横でカンガルーのごとく跳ねていた。
外はさらに暗くなっていた。
次の日、どんより雲だった
再び別の店を訪れた。シューはりんごを3つ持ってきた。
「すごいよ、ポー」
「どうしたんだい」
「お店で血液型を聞かれたんだ。それで、昨日のことを思い出して、物は試しだと思って『A型です』と答えたんだ。すると、2つのところをもう1つおまけしてくれたんだよ。本当にサービスしてくれたんだ」
「それはすごい。でも、嘘はダメだよ」
「君は真面目だな」
りんごは頂いた。残った1つはカバンに入れていた。
「いいね」
「いいりんごだった」
「その『いいね』ではないよ」
「この街がかい?」
「そっちでもないよい。おいらの言ったことがわかったのかという確認の『いいね』だよ」
「それぐらい分かっているよ」
シューは静かに笑った。
「君は感情が薄いから、冗談かどうかわからないよ」
「よく言われるよ」
「おいらがよく言っているの」
「いや、その前からも」
「その前?」
オイラは首をかしげた。
「君と出会う前からさ」
「そうなのかい?」
「冗談だよ」
「もう」
シューは静かに言った。
周りは静かだった。そういえば、人の賑わいがなかった。普通なら仕事に行く大人、学校に行く子供、鳴き騒ぐ動物と賑わうはずである。少なくとも、おいらたちが今まで行った街はほとんどがそうだった。洗濯物がバサバサと風に遊ばれる音が響いていた。
「なんか、静かだね」
「昨日来た時はもう少し賑やかだったけどね」
「おいらの気のせいじゃないよね」
「ああ。僕もつい君に話しかけたくらいだ」
「軽率だね」
「冗談だよ」
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