□もうちょっと頑張ってみる
警察のオペレーターが頑張ってくれてはいるだろうが、警察官がすぐに到着してくれるとは限らない。
数十分は掛かるだろうし──その前に、爆発のタイムリミットが訪れてしまう可能性だってある。
念の為、私は不測の事態に備えて出来ることをやってみることにする。
今出来ることといえば──他の脱出方法を探すことくらいである。
──とはいえ、隠し通路や隠し部屋といった大掛かりな仕掛けが一般のお宅に存在しているとは思えない。間取りや部屋の構造からして、此処は何処かのマンションの一室やアパートだと私は当たりを付けていた。
それよりも、「窓や扉が開かないのなら……」と私はとある考えを頭に思い浮かべたものである。
「壁を壊すのはどうだろう? どうせ、周りには誰もいないんだから、壁に穴を開けたって誰にも文句を言われる筋合いなんてないし……」
待っている時間も無駄なので、私は大胆な行動に出てみることにした。
扉や窓を壊すのではなく、壁に穴を開けてそこから出れば良い──。
思えば、そっちの方がずっと簡単な方法である。
壁を破壊するには、ハンマーやツルハシといった頑丈な道具が必要になるだろう。ドライバーとかスプーンは見掛けたが、そんなものではどれ程の時間が掛かるか分かったものではない。
──果たして、この家の中にハンマーやツルハシは存在しているのだろうか。
改めて、家の中を探して歩くことにする。
すると押し入れの奥底で──どうしてこんなものを隠しているのか分からないが──発破解体用の巨大なハンマーを発見した。
私はハンマーを手に持ち、家の中を見て回った。
どの壁を破壊するのが良いのだろう──。角部屋なら外──中間なら隣室に繋がるように貴方を開けた方が良いのか?
──最初の部屋に戻って来た。
弁当箱やペットボトルが散らかったその部屋の壁の前に立つ──。
「ここにしよう……」
その壁だけ、他の部屋とは接していなかったので──隣家かもしくは外に通じているはずである。
私はハンマーを両手で大きく振り上げた。
──そして、それを振るって壁を叩いた。
壁が金属で造られていない限り、鎚による殴打に耐えられるはずもないだろう。
先ずは壁紙が貼られた表面の壁が飛散した。
「イケる!」
それを見て、私は確信したものである。
壁を壊せる。
──脱出が出来る!
私は一心不乱にハンマーを振り下ろした。どんどん壁が崩れていく──。
ところが、いくら壁を叩いても隣家に到達することも外の景色が見えてくることもなかった。
壁にヒビが入って──壁にヒビが入って──壁にヒビが入るだけである──。
思い切りハンマーを振り下ろす。
──それでも、壁に穴は開かない。
私は戦慄した。
──明らかに可笑しい。
こう何度も叩いていれば、壁に穴くらい開きそうなものである。それなのに──。
私は全力でハンマーを振り下ろした。
壁にヒビが入るだけである──。
──というか、これは──。
「……変わってない?」
何も進展していなかった。
何度ハンマーを打ち付けても変わらない。
ここまで壁を破壊しているのだ。頑丈な素材で出来ているとは考え辛い。では、何故──。
私はハンマーを振り下ろしながら気が付いた。
──私が力を弱めているのだ。
無意識に、壁が傷付かないように力を制御していた。
どんなに力を込めても、寸前で弱められる。
──それでも、思い切り振り下ろしたかのような感覚を抱いたものである。
「なんだこれは……?」
可笑しい、可笑しい──。
私は、何度もハンマーを振り下ろした。
「うわぁあああぁぁあああ!」
私が、可笑しい──。
渾身の一撃も及ばない。
とうとう、タイムリミットを迎えてしまった。
──結局のところ、警察も間に合わなかった。
誰も助けには来てくれなかったのだ。
爆弾が爆発し、爆風が辺りを包み込む。
私の体は粉々に砕け散り、肉片となって周囲に弾け飛んだのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます