014 ラビティの群れ

「……せめて,お墓でも作ってあげようか」


 アーノルドは腰からナイフを取り出すと、動かなくなったラビティの近くの地面を掘り出した。

 慌ててリディアも「そんなことは私がいたしますから!」と続いた。


しばらくして、二人は出来上がった墓に向かって手を合わした。


「人間も魔物も仲良くできる時代がやってきますように……」


 アーノルドがそう呟いた時だった。


「アーノルド様!」


 リディアが突然剣を抜き身構えた。

 ガサガサっという茂みで何かが動く音。それが四方八方から聞こえてくる。


 アーノルドもナイフを取り出し、一応戦う格好だけはしてみる。

 明らかに何かがこちらに近づいてきている。


 あっという間に二人はラビティたちに囲まれていた。その数、二十匹以上。

いつもはおとなしいラビティだが鼻息が荒くどうやら怒っているようだった。


「もしかして、仲間を殺されて怒っている?」


「しかも、そうしたのは僕たちだと思っているようだね」


「戦うしかありませんか……?」


 そう言ってみたものの、リディアは心臓が飛び出しそうなほど緊張していた。 

 ラビティとはいえ、こんなに大勢を相手にアーノルド様を守り切れるだろうか。怒っているラビティの攻撃がどんなものなのかも想像がつかない。

 ああ、もっと実戦形式の訓練を行っておくべきだった……色々な思いが頭の中を巡る。


 するとアーノルドがナイフをしまい、膝をついた。

 そして大勢のラビティに向かって言った。



「ごめんね、君達の仲間を守ることができなかった。何も悪くないというのに」



 リディアはその言葉を聞いて、自然と剣を鞘に収めた。同時に自分もアーノルドの左横に同じようにしゃがみ込む。


 二人に敵意がないことを確かめるように、ラビティのうちの一匹がアーノルド

に近づく。

 「おっ」と反応して、アーノルドが右手を伸ばす。その動きがいけなかった。近づいて来たラビティがびっくりして、突然アーノルドの指に噛み付いた。

 

 「アーノ……」

 

 リディアが声を上げた瞬間、アーノルドが左腕を伸ばし彼女の行動を制した。


「大丈夫。これくらい痛くない」


 噛みつかれたまま、優しい眼差しでアーノルドはラビティを見つめる。指先からは血が流れ落ちる。


「本当にごめんね、許してくれないかい」


 今度は左手をゆっくりとラビティの頭に置き、優しく撫でた。


 ラビティは抵抗することなくそれを受け入れた。と同時に、口を離しアーノルドの指にできた傷口をペロペロと舐め始めた。



「ありがとう」



 ラビティたちの怒りは収まったようだ。先ほどの荒い鼻息はどこへやら、いつものようなピピッという鳴き声が響き渡る。


 そして、ゆっくりと茂みの奥へと消えていった。

 

 

 再び森の静寂が訪れる。

 


 リディアの緊張の糸が切れ、体全体の力が抜けた。



「はぁー、びっくりした。ラビティとはいえ、数十体に囲まれるとどうなるもんかと! ねぇ,アーノルド様!」


 矢継ぎ早に彼女は続ける。


「それにしても、凄かったですねアーノルド様! ラビティが懐いていましたよ! 普通人間が魔物と仲良くなるなんてあり得ないですよ!」


 とここまで喋りきってから、彼女はアーノルドが返事をしないことに気づいた。


「……アーノルド様?」


 なんと、アーノルドは自分の指から出血したショックで気絶していた。

 

「ぎゃぁ!」


 リディアは今まで出したことのないような、変な声が出た。

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