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 彼女との出会いは、俺の寝床だった。寝床といってももちろん家なんかではない。大衆が闊歩する、地下鉄の駅の通路だった。なにせ俺はホームレスだ。

 俺は、いつもの様に空き缶を前に置き、世間で言う新聞紙(畳と俺は呼んでる)の上で神に祈りを捧げていた。別に何かの信者でもないし神なんて信じちゃいないが、得にすることもないし、なぜかこうしてるといつもより収入が少しいい。信じていない神様に感謝。

 ふと俺の前で誰かが立ち止まった。数少ない神の使徒かと俺は祈りの姿勢のまま、チラリとその神の使徒を見た。俺は一瞬目を疑ったね。

 神の使徒は実に神々しい姿をした、まだ幼さの残る、それはもう美しい少女だった。俺は神に感謝した。こんな美しい少女とほんの一時でも出会わせてくれて、ありがとうってね。そして、出来ればこの少女と恋人・・・いやいや、お友達にさせてくれたら、神様、私はあなたの存在を心から信じましょう、なんて都合のいいお願いもひっそりとした。

「結婚して下さい」

 俺は自分の耳を疑ったね。ああ、ついに俺も終わりか。目も耳もイカレちまいやがった。欲張りすぎた、俺に後悔。神様ごめん。でも、最後に幸せをありがとう。俺、あんたに一生ついてくよ。

 俺が黙ったままなので少女がイライラしたように言った。

「結婚してくれるの?くれないの?」

「はあ?」

 俺の耳はどうやらイカレてはいないようだ。と、いうことは・・・俺は段々腹が立ってきた。そうだ、こんな子が俺に本気で結婚を申し込むはずが無い。第一俺は今年で四十とちょっと、彼女はどう見たって二十歳がいいとこ。と、なればこれはきっとからかわれてるにちがいない。

 俺は少女を睨みつけ、

「大人をからかうんじゃない!」

 と、言ってやった。さあ、どうだ。

 ところが彼女の目は真剣だった。彼女の目から大きな涙がぽろりぽろりと溢れ出した。彼女は大声で泣き出してしまった。大声で泣きながら結婚してくれと叫んでいる。通行人が不思議な物を見る目を向けてくる。やめてくれ、その目は嫌いだ。

 仕方が無いので、

「分かった、結婚する!結婚するから泣き止んでくれ!」

 と、言った。

 すると、途端に彼女は泣き止んで、

「ほんと?」

 っと、笑った。しまった、騙された。

 そう思った途端、俺は彼女に手を引っ張られた。

 どこへ行くのかと訊ねると、

「結婚するんだから私の両親に挨拶に行かなきゃ駄目でしょ」

 と、言う。どうやら、本気のようだ。

 手を引かれながら、俺は一つの疑問を口にした。

「どうして俺と?」

 彼女はとびっきりの笑顔で答えた。

「あなたには可能性がある」

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