第112話 衝撃!



「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・」

ソフィに言葉はない。

とにかく呼吸を整えるのが最優先だろう。

ソフィは自分に回復魔法をかけていた。

「ふぅ・・あなたたち、いったいどういう身体してるのよ。 私なんて軽く回復魔法をかけながらついて行ってたけど、魔力が切れてもうダメだったわ。 少しずつ回復しているけど、これでもし帰還者が敵対してきたら、よろしく頼むわね」

ソフィが引きつった笑顔を見せていた。

「テツ・・ありがとう。 ソフィを見たら限界そうだったのでね。 実は僕もギリギリなんだけどね」

レオが笑う。

「それにしてもテツは凄いスタミナだね」

「いやいや、実は俺も限界だったんだ」

俺は嘘をついた。

全然問題ないレベルだ。

俺は推察する。

レオたちはそれほど高いレベルじゃないのかもしれない。

まぁ騎士団にいたのだから、最低レベル20は超えているだろう。

だが、先程の移動速度程度で疲労を感じているくらいじゃ、実戦といっても大したものを経験したわけじゃなさそうだ。

レオ(♂)、ソフィ(♀):レベルは27だった。

テツはレベル44。

全く違い過ぎたが、それを知る術はレオたちにはない。


ソフィの疲労も回復し、俺たちがしばらく移動していると人が狩られた場所のすぐそばまで来ていた。

「テツ・・この辺りのはずなんだが・・」

レオが言う。

俺の感覚でも同じような場所だ。

俺たちは周りに注意をしながらキョロキョロと辺りを見渡す。

・・・

何もない。

いや、人がいたらしい痕跡はある。

全く破壊されていない建物。

小さなビルまである。

ロシア領域なのだろうと思うが、不気味に人の気配だけがない。

シーンという音が聞こえてきそうな感じだ。

俺たちは街中を歩きながら探索をする。

「レオ・・人が普通に生活していた感じよね、これって・・」

ソフィが足元の服を拾う。

「それにこの服・・ついさっきまで着ていた感じだわ」

ソフィの言葉を聞き、俺もそう思う。

「ソフィ、人だけが狩られたんだ・・それにしても一体誰がこんなことを・・悪魔だ」

レオがつぶやく。

俺もそこら辺に散らかっている衣服を見ながら思う。

確かにドレインタッチのような相手の生命力を吸収するスキルはあるはずだ。

アンデッドなんかの得意分野だろう。

だが、人が丸ごと消えるようなものってあったのかな?

それって捕食しているってことだろ?

・・・

俺はそんなことを思いながら辺りを見渡す。


「テツ・・僕の知っている知識では、人がまるごといなくなるスキルって知らないんだ。 魔族ではそういうスキルはあるのかい?」

レオが聞いてきた。

「いや・・魔族でも聞いたことはない。 だが、アンデッドなんかであるドレインタッチなんかは、相手の生命力を吸収するらしい・・あ、俺も見たことないけどね。 でも・・ほんとに誰なんだろうな」

俺もつぶやきながら散策する。

・・・

生存者なし。


俺はレオたちと顔を見合わせると首を横に振る。

「・・全くダメだ。 手がかりがない」

レオが愚痴る。

「そうね。 このままやみくもに探しても意味ないし・・やはり一度戻って報告した方がいいわね」

ソフィが返答しながら、携帯で現場の写真を撮っていた。

もう1度周辺をチェックし、俺たちは帰路につこうとした。

!!

「レオ!」

ソフィが呼ぶ。

レオもうなずく。

無論俺も気づいている。

強い魔素が2つ、俺たちの方に向かって来ていた。

俺は警戒しつつも、魔素をもう少し弱くしてみる。

全く消えてしまっては余計に怪しまれるだろう。

それにレオたちと一緒にいる時も、魔素の大きさをわからなくはしていたが。

「こ、これは・・僕たちと同じくらいか・・それよりも強い感じだな」

レオが真剣な顔になってつぶやいていた。

「で、でも・・誰なのかしら・・って、意味ないわね。 こうなったら・・」

ソフィが過激な言葉を出しながら戦闘態勢に入っていた。


大きな魔素が2つ、俺たちの近くに来た。

目視できても不思議ではない距離だ。

俺は魔素の現れた場所を向く。

レオたちも少し遅れて俺と同じ方を向いた。

「あれ? 大きな魔素が集まっていると思ったら・・テツじゃないの」

女の人の声で話しかけてきた。

アンナだった。

俺はその声と顔を見てホッとした。

「ア、アンナじゃないか」

俺の言葉にアンナの後ろからクラウスが現れる。

「テツ・・魔素はあまり隠すものじゃないぞ」

クラウスの言葉を聞きながら、レオたちが俺を見る。

「あ、あぁ・・彼らはドイツの帰還者なんだ。 アンナにクラウスだ」

俺はレオたちにクラウスとアンナを紹介した。

・・

レオたちはすぐに打ち解けていた。


クラウスが俺に聞いてくる。

「テツは忙しいね。 今度はイギリスと手をつないだのかい?」

「さ、さぁ・・俺にはわからないよ。 それよりもクラウスたちも調査に来たのかい?」

別に俺は悪いことはしていないのに、何か気まずさを感じる。

そんな俺を見てクラウスがニヤッとしながらうなずく。

クラウスの反応など関係なくアンナが難しそうな顔をして聞いてくる。

「テツ、あなたはどう思うの? いったいどんな人物がこんなことをしてるのかしら?」

アンナの言葉にレオが反応。

「えぇ、僕たちもそれを考えていたのです」

・・・

やはり何も見つけられそうにないので、俺たちは帰還することにした。

するとアンナがポロッとつぶやいた。

「ほんと・・帰還者なのかなぁ」

!!

俺はその一言に衝撃が走った。

そうだ!

ついついそういったスキルや能力だと思っていた。

そしてついでに浮かんだ顔がある。

プッツンことディアボロスだ。

それなら合点がいく。

あいつなら自分のエネルギーに変換できるだろう。

だが、いったいどうやって人を吸収しているのだろうか。

それもこれだけ大量に、しかも一気にだ。

俺の頭にいろんな言葉が浮かんできた。

俺は知らない間に動きが止まっていたようだ。



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