第34話 挑発



「武藤さん、勘違いしないでください。 名古屋の彼らが本気になったら都市部など吹き飛びますよ。 そしてもし彼らが家族に危害が加わったと判断し暴走すれば制御できません。 あなたたちはどういう風に私たちを捉えているかわかりませんが、想像を超えるものですよ」

俺の言葉に誰も返答しない。

俺は続ける。

「そうですね・・口で説明するより早い。 ここの人たちは内閣情報調査室の人たちですよね? 国家の機関でこんな情報の調査をするような人たちだ。 護身用に銃くらいは持っているでしょう。 それで俺を撃ってみてください」

またも俺の言葉に誰も反応しない。

いきなり過ぎたか?

だが、時間が惜しい。

リカさんやケン君が苦しんでいるだろう。

本当に、もし家族に何かあったら暴走するだろう。

死ぬぞ。

俺はそんなことを思いながら話を急ぐ。


武藤たちはお互いに目を合わせてソワソワしている。

そのうちに武藤がうなずく。

「佐藤さん、我々も回りくどいことはやめます。 えぇ、確かに銃は携帯しています。 それであなたを撃てというのですか?」

「はい」

武藤の言葉に俺はうなずく。

「だがねぇ・・」

武藤が渋い顔をする。

「武藤さん、私の腕か太腿、いや、わき腹などを狙って撃ってもらって構いません。 どうせ当たりませんから」

俺はあっけらかんと答える。

武藤の周りの人たちがザワザワしだした。

「う~ん・・」

武藤が唸っている。

少しすると、武藤の後ろの男が声をだした。

「武藤さん、相手が撃っていいと言ってるんだ。 撃ってやりましょうよ」

「常盤・・しかしなぁ」

「私がやりますよ。 相手は当たらないと言っているのです。 それに殺すわけじゃありませんから」

常盤と呼ばれた男が少し興奮した感じで言う。

若いな。

武藤はそう思いながらも、どこかで見てみたい気もしていた。

佐藤は当たらないという。

常盤は佐藤の挑発に乗ってしまっている。


武藤は少し迷っていたが、大きくうなずいた。

「わかりました。 佐藤さん、もし本当に当たっても我々では責任を持てませんよ」

「いいですよ。 何なら誓約書でも書きましょうか?」

俺は笑いながら言う。

常盤がさらに勘に触ったようだ。

「佐藤、舐めるなよ。 銃が当たらないって、どうやって避けるのか知らないがまぁ死ぬことはない」

「えっと常盤さんでしたっけ? そう興奮しなくてもいいですよ。 本当に当たりませんから」

俺はさらに刺激をする。

常盤の顔が険しくなる。


これでいい。

俺は武藤を見て、常盤に頭を下げる。

「常盤さん、お願いします」

常盤が武藤を見る。

武藤がゆっくりとうなずいていた。

俺と常盤からみんなが離れていく。

跳弾を警戒してか、皆常盤の方へ移動した。

俺と常盤の間に2メートルくらいの距離がある。

常盤が懐から銃を取り出して俺に銃口を向ける。

少し銃口が震えていた。

銃口は俺の右わき腹を狙っている。

なるほど。

確かにここなら当たっても傷が残る程度だ。

優しい奴だな常盤って。

俺はそう思うも、さらに一歩前に進む。

常盤が驚く。

「常盤さん・・えっとこの辺りで撃ってもらっていいですよ。 どうぞ」

俺は常盤の手を取り、俺の右わき腹の前方30㎝くらいのところに銃口を固定する。


常盤が不安そうな顔で武藤の方を向く。

武藤も少し驚いた顔をするが、うなずいていた。

「さ、佐藤・・撃つぞ」

常盤の声が震えている。

「いつでもどうぞ」

俺はそう答えるが常盤が震えている。

まぁ、どうせ当たらない。

弾丸が俺の身体に触れることはない。

自然と無意識下で常に魔法防御が施されている。

物理攻撃は無効化される。

弾丸は俺の身体に触れた瞬間に弾丸の運動時間が消滅する。

すべてゼロになり落下する。

反射してもいいが、周りに迷惑だろう。

集団戦闘ならそういう設定にすることも可能だ。

だが、この事務所、いやこの世界ではそんなことは危なくてできない。

それにまず俺に弾丸が届くことはない。


常盤が震えつつも、ついに引き金を引いたようだ。

パァァァ・・。

パンのンを聞く前に俺は超加速で集中する。

銃口を見ると、弾丸が一発飛び出していた。

俺は弾丸にチョンと触れてみる。

「熱ぅ!」

俺はすぐに弾丸に氷系の魔法をかけて冷やす。

弾丸を掴んで武藤のところまで歩いて行く。

武藤の机の上に弾丸を置いた。

さて、後はどうしようかな。

俺以外の時間はほぼ停止している。

俺は少し考えていた。

・・・

よし、決めた!

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