アフターフェヰス

庭花爾 華々

第一章:希望都市エルピス

第一週

(月)投獄とスーパーヒーローの登場

①彼女について、簡単に説明したいと思ったとき、僕は幾つか象徴的なエピソードを伝えることにしている。

 例えば、こういう話がある。

 それはある日の朝のHR、これでホームルームと読むのを僕は、高校に入学して知ったのだが。先生が何か他愛の無いことを喋って、なるほど僕はそれを他愛無いな、と聞いていた。だから内容も、まして顔も、さらば声など忘れてしまっている。それで、写真を配られた。集団写真だったから、修学旅行か何かだろう。

 僕の名前が呼ばれた。

「ソラさん、貴方の番ですよ」

 さん付けは、性別云々の問題に配慮している、と以前、数学の先生が一人ごちる様に云っていたのを思い出す。まあ手前、彼女の授業は始終独り言みたいな状態だったから、なに、人気が無いという意味である。

 問題問題言い過ぎるのもそれはそれ、だとか。差別差別いうのも、もう同じなんじゃない? だとか。僕の名前はソラじゃなくて、空。蒼空アオゾラクウであるとか。

 細かいことはどうだって良いのだ。

 細かいところまでかどうか、までも。

 話を戻そう、そこで配られた写真は、封筒に入っていた。それを勿論、当たり前だ。などと思われるかは預かり知れぬところなので、大切なことなのでもう一度言っておこうと思う。

『写真は封筒の中に入っていた』

 だからという訳では無いが、しっかり封もしてあった。いや、これが未開封かどうかは、それが簡単なシールだったから保証できないけれど。

 これらを踏まえて、だから僕は驚愕したのだ。

 彼女の行動の異常さ、に関して、ではなく。である。_そこに関して僕は、ある程度の、と言っても常人じゃ理解できない域まで許容できる自信があった_

 先生から、手渡されて。

 僕はそれを、着席と同時に開けた。

_補足すると、これは僕が敬虔な愛国者だったわけでは決してない、僕は隅で放っとかれるほうだった。だから返却されたテストを、誰に云われるでもなく開けるのと同じと考えてもらいたい_

 妙に引っ掛かりがいい集団写真は、つまり切り刻まれていた。頭を、刳り貫かれていた。しかも、僕と彼女、その男女ワンペアを除いてである。

 此処で僕が驚愕したのは、犯人の狂気的な犯行と、その動機ではない。だから席的に体をひねる様にしてこちらを見ていた彼女が、

「これで、ハネムーンだね」

 などと、この際どこまで本気か分からない発言をしてきたところで、

「ハネムーンで飛騨・高山は、ちょっと渋くないですか?」

 いや、君が生きたいのならどこへでも付いていくけれど。

 などと、のろけ気味に返すことだって出来た。

 だから諄くなるけれど、封がしてあって、先生からの手渡しで、それを着席と同時に開封したはずなのに。どうして犯人は、彼女は僕ら以外を切り取るという、地味に時間のかかる仕掛けを施せたのか。

 そこに、僕は驚愕した。

 彼女が手を僕の前に出す、勿論、それは握り拳になっていた。そうして開かれる握り拳から、愛の被害者たちがパラパラと僕の机に落ちていく。

 それは粉雪の様だったし、そんな彼女はマジックの局面をこなす天才美少女マジシャンに見えた。

 よく見れば、いや見なくとも分かるが、その頭たちはどれも、上からマジックでぐしゃぐしゃにされていた。ご丁寧に、一体ずつ、である。

 だから彼女は、一回、皆を上から塗りつぶしてみたのだと思う。そして、物足りなさに気づいた。だから、全員の顔_僕と彼女を除き_を刳り貫いた。

 これで、二人で旅行に行っていたみたいじゃない!?

 やったー!!

 何が言いたかったのかと言うと、彼女が相当に僕の事を好いてくれている、という所も然り。これが彼女が能力者であったという、初まりなのだ。

 これは始終、能力モノである。

 その為の前置きだった。

 


 

 



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