第7話 ジゴ×ト×ジコ

 激務!

 あの楽しい一日から一転、田中は村田の新コスチュームとその戦闘に対する対処に追われていた!


 止まらないクレームの電話に追われ、全日本ヒーロー協会からの電話に対応しているうちに一日が終わる。

 そんな毎日を過ごしていた。


 村田の姿は事務所にはない。彼は今回の一件で一週間のヒーロー活動自粛を言い渡されていた!


 幸い、シャイニング村田の怪人討伐における貢献度の高さと、原因が新コスチュームにあることからヒーローを廃業する必要は無かった。

 それでも、今回の一件で迷惑をかけた人は数多くおり、田中はその後処理に追われていたのだ。


 そんな中、田中は村田のことを気にしていた。


「村田さん、大丈夫かなぁ……」


 今回の事件で村田は酷く落ち込んでいた。ヒーローが子供たちの希望となるどころか、トラウマとなってしまったのだ。

 謝罪会見を開いた後の村田の寂しそうな背中はとてもではないが見ていられなかった。


「また復帰したら村田さんの好きなシュークリームを渡してあげよう」


 密かな決意をしながら、田中は書類の山に立ち向かうのであった。


***


 田中が書類と奮闘している頃、村田はとある山奥にいた。

 初めは学校に通っていたが、学校でもシャイニング村田(闇)の話題ばかりだった。


 更に、あの動画をもとにシャイニング村田に関する根も葉もない噂が大量に流れており、それがクラスでも話題に出るため村田は耐えられなくなり、学校を休むことにしたのだ。


 山奥は静かで、シャイニング村田の心の平穏をかき乱すものは何もなかった。

 持ってきた折り畳み式の椅子に座りながら、村田はネットに流れているシャイニング村田の噂を思い出していた。


『悪魔に魂を売った男』

『侵略者と裏で取引をしている』

『本当は怪人』

『ファンがいない』

『臭い』

『ダサい』

『貧乏』

『魔法少女の前で腰を振っていた』


 酷い誹謗中傷である。だが、村田はこれらの噂に反論する元気も無かった。

 もちろん、ネット上にシャイニング村田を擁護する声が無かったわけではない。


 例えば、シャイニングLOVEを名乗る人物は積極的に村田を擁護し、村田の良いところを毎日のように発信していた。

 しかし、シャイニングLOVEは『魔法少女の前で腰を振っていた』という噂が流れた瞬間に態度を一変させ、ことあるごとに村田を『ビッチ』というマシンと化してしまった。


 こうして止める人が誰もいなかったこともあり、村田の噂はもの凄いスピードで拡散されていった。


「はあ……僕、ヒーローに向いてないのかなぁ」


 村田は幼いころからヒーローに憧れていた。画面に映るヒーローを見て、いつか自分も多くの人に希望を与えられるヒーローになりたいと考えていた。

 しかし、現実はそう上手くはいかなかった。


 村田に実力はあった。

 しかし、いつの間にか民衆にとってヒーローが勝利することは当たり前となり、大事なのはかっこいい勝ち方と、見た目になっていった。


 村田も出来る限り、人々に好かれるよう努力をしてきたつもりだった。しかし、今回の様に彼の努力は逆に人に嫌われるという結果を生んでしまった。


 流石の村田も精神的に疲れ、ヒーローをやめようかと悩んでいるとき、一人の男が彼に近づいて行った。


「あ、あなたは……!?」


 村田の前に現れたのは、全裸の男だった。


「おや?人に会うとは珍しい。若者よどうしたんだい?」


 いつもの村田であれば目の前の男を変態だと判断できただろう。しかし、目の前の全裸の男には謎の包容力があった。

 そして、村田は悩んでいた。


 結果として、村田は目の前の変態に自分の悩みを打ち明けることにしたのだった。


「ふむ。つまり、君は人気のない自分ではヒーローは務まらないと考えているのかい?」


「まあ、そうかもしれません。僕にとって、ヒーローとは希望を与えるものです。なのに、僕が与えたのはトラウマでしたから……」


 「ははは」と乾いた笑いをする村田。


「そうかな?私は君はヒーローになれると思うよ」


 村田の考えを変態は否定した。


「ヒーローは希望を与えるもの。確かに、その通りだ。だが、ヒーローの一番の仕事は民衆を守ることだろう?そして、君はそれが出来ていた」


「で、でも僕は人気なんてありませんし……」


「人気があるから希望になるというのは少し違うと私は思うね」


 変態の言葉に村田は思わず顔を上げた。


「希望と言うのは光だ。自分たちにとって最後の砦、進むべき方向を示してくれるものだ。君の強さは、人々にとって希望となっていたと私は思う。人気は無いかもしれない。地味かもしれない。それでも、君がいるならこの街が侵略されることはないと人々は思っていたと思うよ」


「そんなこと、分からないじゃないですか……」


「そうだな。でも、このデータを見るといい」


 そう言って、変態が差し出したのはここ数年における村田の住む街の住人の増減と、侵略者による被害件数が示されたグラフだった。


「ここ二年で君の活動している街の住人は増加している。更に、侵略者の被害件数は減少している。これこそが住人がこの街は安心だと感じている立派な証拠じゃないかね?」


 村田は黙ってグラフを見つめたいた。


「君が一番大事にしているものは何か。それを思い出すといい。余計なものは捨てたまえ。君に必要なのは捨てる覚悟だ」


「捨てる覚悟……」


「私は捨てた。そして、その中で捨てきれない大事なものを見つけたよ。先ずはその邪魔な服から捨てるといい。そして、この山を走るんだ。そうすれば大事なものがきっと見つかる。捨てたものの中に大切なものがあるなら後から拾えばいいだけさ」


 「さらばだ」と言って変態は何処かへ消えていった。結局、変態が何者なのか、どうして村田の悩みを聞いてくれたのかは謎に包まれたままである。

 だが、彼の言葉は確実に村田の胸に響いた。


 その場で服を脱ぎだす村田。しかし、最後の一枚であるパンツのところで彼は迷っていた。


 その時、村田は思った。このパンツは人気だと。

 人から見られることを意識するがために自分はパンツを脱ぐことができないのだ。

 だが、本当に大事なことは人気なのか?人の評価なのか?


 違う。村田にとって本当に大事なのは平和な世界のはずだ。


 そのことに気付いた時、村田はパンツを脱いでいた。


 今までに感じたことのないほどの開放感を村田は感じた。それと同時に、今まで自分がどれだけ人気に捕らわれていたのかに気付いた。


 村田は走り出した。

 今の自分こそ本当の自分だ。人の目を気にせずに走る。


 そうだ。僕は人気など気にせずに自分の信じる「平和を守り抜くヒーロー」を目指して走り続ければいいんだ!!


「イィィィヤッフゥゥゥーー!!」


 この日、後にヒーロー界において伝説となる男、シャイニング村田(真)が誕生した。

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