第177話 オーバーヒート


テラスネークは100体以上の分身を作った。

しかも、その1体は100人の集合体である。

つまり──。


「ホホホ! 100倍のテラスネークが100人。実質1万人分のテラスネークさ!!」


テラスネークの体からは湯気が立ち上る。



「ああ、熱いわぁ! 体が燃えるようよ!!」



本来ならばその熱さは死の危険に対する不安要素である。しかし、俺の力を知っているテラスネークは、この現象に胸を膨らませた。



「さぁドンドン増やすわよ! この熱が更なる限界を超える力をもたらしてくれる! 規格を超えた発熱か……やがて炎と成る。ククク。 規格外発火現象オーバーヒートとでも呼ぼうか」



規格外発火現象オーバーヒートか。

なるほど、今の俺はまさにそれなのかもしれん。


僧侶リリーは何かに気がついたように叫んだ。



「タケルさん。魔硝石を利用した照明器具は使い過ぎるとオーバーヒートを起こします! その状態になった魔硝石は、ひ……ひびが入って壊れてしまうんです!! だから、早くタケルさんを冷却しないと大変なことになるかもしれません!!



……そうかもしれん。

だがな──。




「俺はテラスネークを許さない!! 俺の体がどうなろうと、フルパワーのテラスネークを更に超えて、完全に叩き潰す!!」




蛇は勝ち誇ったように笑う。




「アハハ! 私を叩き潰すだって? バカも休み休み言え! 私は100人以上に増え続ける。しかも更に、その全員が 規格外発火現象オーバーヒートがもたらすパワーを得るのさ! お前に勝ち目は無い!!」



テラスネークは100人を超えて増え続けた。



「さぁドンドン増えるわよぉおおおおおおおおお!!」



仲間達がそのおぞましい光景に汗を流したその時。事件は起こる。




「ああ! なぜ!?」




テラスネークの顔がドロドロに溶けて片目が鼻より下の位置に落ち込んでいたのだ。

100人を超えたテラスネークは全員が大量の湯気を出す。そして、苦悶の表情を浮かべて顔を抑えた。





「と、溶ける!! どうして!?」





蛇達の体は湯気とともにドロドロと溶け始めた。

その光景にリリーは声を上げる。



「メルトダウンです!! 力を使い過ぎたから、それに体が耐えられなくなった! テラスネークは自滅します!!」



蛇は信じられないでいた。



「メルトダウン!? そんなバカな!! どうして!? 力の限界を越えればスーパーパワーを得られる 規格外発火現象オーバーヒートになれるんじゃないの!?」



テラスネークの指先から骨が見える。



「ク! ダメだ!  分裂ディビジョンを解除をする!! メルトダウンが収まるまで数を減らすしかない!!」



増え続けた蛇はその数を減らし、100人になった。



「ひゃ、100が限界……。それ以上増やすと体が溶ける!」



俺は奴を睨みつけた。その体には紅蓮の炎がメラメラと燃える。まるで怒りの力を燃料にしているように。



「それがお前の限界か……」


「ま、待て!! ど、どうしてお前は炎を宿すことができるのだ? 限界を超えて、どうして無事でいられる!?」


「やれやれ……。この状態については、理由をさっきも話しただろう──」


俺は大きく息を吸い込んで、一括した。











「   知   ら   ん   !!  」












テラスネークは言葉に詰まる。

やがて、震えた。






「……………………し、知らんって。そんな無責任な」





無責任だと?


俺は蔑んだ目で答えた。



「人を騙すお前に誠意なんか1ミリも見せないぞ」


「うう!! し、しかしだな!! お前だけパワーアップして私はできないなんておかしすぎる!!」


「おかしいのは人を騙すお前の価値観だ」


「く!! 言いたいこと言いおって!! 同じ神の武器を所有しながら、貴様だけパワーアップするのは狡いわよ!!」


「やれやれ、人を騙すお前に狡いのなんのと言われる筋合いは1兆ミリも無いが……。この炎を宿している理由。強いて言うなら──」



再び、俺は大きな声で一括した。








「 俺 が 怒 っ て い る か ら だ !! 」








蛇は悔しさで震えた。


「ふ、ふざけるな!! 怒ったくらいでパワーアップができるなら、私だってお前に腹が立っているんだ!!」


「そんな怒りと比べるな!!」


テラスネークは汗を流しながらも不敵に笑った。



「く……くくく。ま、まぁいいさ。私は100人もいるんだ。お前はたったの1人だけ」


俺は目を細めた。



「だから?」



「くくく……。例えお前が超絶パワーアップしているとはいえ、私だって個体は100人の集合体なんだ。100倍のパワーを持っている」



「それで?」



「100倍の私が100人! お前はたった1人!!」



「それがどうした」



「お前に勝ち目は無いってことさ! お前も仲間も、アーキバの国民も、このロメルトリアにいる全ての人間を、全員あの世に送ってやる!!」



100人のテラスネークは両手をかかげ、その五指を広げた。




「喰らえ! 蛇光連弾 ダブル!!」




蛇光連弾は20発である、ダブルはその倍で40発。

それを100人の蛇が放つのである。つまり、4000発。

蛇光弾1発の威力は街を破壊するほどの威力。そんな弾が発射されれば大陸が滅ぶと言っても過言ではない。



だが──。









「発射できたらな」









突然の衝突音。






ドォオオオオオオオン!

ドォオオオオオオオン!

ドォオオオオオオオン!

ドォオオオオオオオン!





それは大きな城が4つ。逆さまになって地面に突き刺さっていた。

その下敷きになったのは50人のテラスネーク。それらは瞬時に肉片と化し絶命していた。

それは瞬きより早い一瞬のできごとだった。


残った半数のテラスネーク達は、あまりの速さにこの光景を理解できない。



「は……!? な……何が起こった!?」



やがて、それが俺の攻撃だと察すると、半分のテラスネークが瞬時にいなくなったことを知る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る