第123話 テラスネークの正体

虎逢真の額には紫色のオーラを放つ呪印がハッキリと浮かび上がっていた。


「テラスネークは呪われていたのか……」


虎逢真は俺に襲いかかる。


威奴牙過忌いぬがすきィイイイ!!」


やれやれ。

本気で殺そうとしているな。


「スキル闘神化アレスマキナ神腕!」


俺は虎逢真の両手首を掴んだ。


以前もこうやって防いだんだ。

手首さえ掴めば何も問題はない。

蹴りでもみぞおちに入れて気絶させようか。



韻弧煮遭蹴いんこにあいしゅうぅうう!!」



虎逢真は獣罵倒ビーストスラングの蹴り技を放つ。すねにはセキセイインコのオーラが纏う。インコは小さな脚を蹴り上げていた。


「何!? 蹴り技もあるのか!?」


可愛い見た目だがヤバイ!


獣罵倒ビーストスラングの技は極限まで物理法則を無視する。

まともに食らえば骨までえぐられて即死である。


俺は即座に手首を離して距離をとった。


盲点をついて攻撃するか。


「スキル闘神化アレスマキナ神速」


ギュゥウウウンッ!!


俺は瞬時に虎逢真の背後に回る。

虎逢真は視界から消えた俺をキョロキョロと探した。


よし、その隙に、


「後頭部に強めの一撃──」


瞬間。

虎逢真は俺の攻撃に気がつき、振り向き様に獣罵倒ビーストスラングを放った。


威奴牙過忌いぬがすきィイ!!」


ヤバイ!



「神腕!」



ガッ!!



闘神化アレスマキナ獣罵倒ビーストスラングの力が衝突し、凄まじい力が光りを放つ。

辺り一面を閃光が覆った。


虎逢真はその力に耐え切れず20メートル吹っ飛ぶ。



「ぐあぁーーーーーーっ!!」



よし、今のうちに追い討ちで止めだ。



憂技贄鞘利うさぎにえさやりィイイイ!!」


何!?


瞬時に発動したのは獣罵倒ビーストスラングの移動技。



ギュウウウウウウウンッ!!



瞬く間に見えなくなった。


「やれやれ。危険を察知すると逃げるのか」


テラスネークもそうだったが、勝てない相手には逃げるようになっているのかもしれないな。呪印をかけた者の臆病な性格が反映されているのかもしれん。


「タケルさーーん! 傷の手当てを!!」


僧侶リリーが駆けつける。



「いや、今は一刻を争う」



虎逢真にコルポコの民を殺させる訳にはいかないんだ。


「スキル闘神化アレスマキナ神速!」


ギュウウウウウウウンッ!!


虎逢真は、俺から逃げながらも、見える物全てを 威奴牙過忌いぬがすきで破壊していた。


この底知れぬ破壊衝動も呪印の特性だろう。


呪いを解くのは一度やっているんだ。


俺の命を削ってでも、この呪いを破壊してやる。


精神集中!



「スキル闘神化アレスマキナ 限 界 突 破 !」



ド  ン  ッ  !!



俺を中心に凄まじい真空波が発生。


全身は闘神と化す。



「俺の一撃は一秒間に億を超える。それは光速を超えて超次元の振動を生む!」


マーリアの解けない氷を破壊したように、虎逢真に根付く、呪いの力だけを破壊してやる!


名付けるならば──




「呪解撃ッ!!」




ド  ン  ッ  !!




それは町中に響く重低音だった。

空間が歪んだような、凄まじいパワー。


虎逢真の額は輝きを放ち、邪悪な叫び声とともに呪印は消滅した。


「ギャアアアアアアアアアアアッ!!」


地面に四肢を付いた虎逢真は、はっと我に返った。


「お、おいは何しちょったんじゃ?」


「元に戻ったか虎逢真?」


「タ、タケルゥウウウ!! おいは、おいは、おんしを殺そうとしてしもうたがよぉおおお!!」


「気にするな。元に戻ったのならそれでいいんだ」


俺の背中からポタポタと落ちる血を見て、虎逢真は額を地面につけた。



「すまん! ほんにすまんタケルゥ!!」


「安心しろ。誰も傷ついてはいない」


「おまんが傷ついちょるじゃろうがぁ!! リリーさぁあん! 早うタケルの傷を治してくれぇええ!!」




俺がリリーに回復魔法をかけてもらっていると、頭に響く声が聞こえた。


『神の子タケルよ……』


この声はリリー、虎逢真、ユユにも聞こえているようだった。


明らかに女の声である。


俺達を大きな影が包み込む。

それはあのテラスネークだった。



『神の子タケルよ。よくぞ助けてくれました。私はテラスネーク。呪術士アブラマンダラによって呪われていたのです』


「そうか……」


俺を含め、みんなは汗を垂らす。

テラスネークが言葉を話す衝撃。

しかも心の中に語りかけてくるのだ。


そして何より。


やはり言っておこうか。


「お前……。メスだったんだな」


『見てわからなかったのですか?』


「すまない」


『私は花も恥じらう乙女です』


聞くんじゃなかった。

コイツは悪乗りするタイプだ。


「……それで、神の子とはなんだ? 俺は人間の子だぞ?」


『あなたは神に選ばれた魂。神の子なのです』


そういえば、俺が生まれる前に神の声を聞いたな。神の名は──。


テラスネークは全てを悟ったように話す。


『闘神アーレスディウスの子、タケル・ゼウサード』


「どうしてお前がそんなことを知っているんだ?」


『私もあなたと同じ神の子だからです』


「…………」


蛇が神の子だと?


リリーは声を荒げた。


「私、タケルさんが蛇でも愛してます!」

「ユユも!!」


『安心して下さい。魂の話ですから。肉体は人間です。魂が神の子なのです』


まさか俺が神の子だったとはな。

自分の人生を振り返って合点がいく。

これで闘神化アレスマキナが使える理由が見えてきたな。


『あなたは闘神アーレスディウスの子。私は蛇神グンダーリの子なのです。私はこの身体を授かって千年生きてきました。その間に女の喜びと、世界が創られた原理を知ったのです』


女の喜びはスルーしよう。

世界の原理が気になるな。


『まずは、私の初めての人の話をしましょうか……。あれは桜の舞い散る春の午後──』


「いや、すまないが世界の原理の方を聞かせてくれ」


『本当に? 私の純潔を奪った男の話など滅多に聞けませんよ』


女の子2人は興味津々。


「タケルさん! 私は気になります!」

「ユユも!!」


「すまんが、女子トークでやってくれ。今は世界の原理が聞きたい」


テラスネークは釈然としない様子だったが世界の原理について話し始めた。


『世界を作ったのは3人の神。創造三神と呼ばれています。その一人、創神ヴィシュヌバールがこの世界を作りました』


「あとの2人は何をしたんだ?」


『維持と破壊です。維持神ブラフーマが世界を維持し、破壊神シバが世界を破壊する。そして、再びヴィシュヌバールが世界を作るのです』


創造、維持、破壊……。

そして創造か。


虎逢真は眉をしかめた。


「おいは難しい話は苦手じゃき、ようわからんが、世界を作って維持するんはわかるっちゃけど、破壊するんがわからんぜよ! 創った世界はずっと維持しちょればええじゃろが!」


『そうもいきません』


「なんでじゃ!?」


『人間が力をつけてしまうからです。生活技術の発展。魔法、戦闘技術。時代と共に人間は強くなる』


「それの何がいかんのじゃ??」


『神に近付く存在を、神は許しません』


「そんな横柄な! おい達は生きとるんじゃぞ!」


『そこで維持神ブラフーマは提案しました。神の子を世界に派遣して、人間の成長を止めることを』


妙な話になってきたな。

神の子の目的は人間の成長を止めること?


『維持神ブラフーマの部下は蛇神グンダーリ。破壊神シバの部下は闘神アーレスディウスです。創造三神はそれぞれの部下に子供を作らせて人間の世界に送りました。ところが、人間の成長は止まらなかった。生活技術と戦闘技術を益々発展させていった。だから──』


俺達は大きく唾を飲み込んだ。

この世界が、実は絶望に包まれていることを知ったから。



『破壊神シバは、この世界を滅ぼすことに決めたのです』

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