第105話 参謀探しで捕まった

魔王になることを決めてから思ったが、美味い物を食べるとテンションが上がるな。ヤンディが気張って俺に美味い物を食べさせてくれるから舌が肥えてきた。


煙突掃除人をしている時は、わずかな水とカチカチのパンだけだったな。干し肉が出た日は嬉しかった。でも、そんなことを深く考えたことがない。

食べ物が美味いと嬉しいんだな。




ーー蛇の国アブラマンダラーー


城下街。


俺は蛇を常食している不思議な国にやってきた。

露店では蛇を串刺しにして炙っていた。

蛇の蒲焼きがそこら中に売られている。


旨そうな匂いはあれか……。


無理矢理奪ってもいいが、殺意の無い相手にはどうもな。


「へいらっしゃい! 美味しい串が焼けてますよ! 蛇の蒲焼き1本500エーンだ!」


うーーむ。思わず前に来てしまったが、エーンを持ってないぞ。

あ、でもポケットに金貨が何枚かあったかな?


「金貨でもいいか?」


「いや旦那。金貨なんか1枚10万エーンの価値があるんですぜ。こんな屋台じゃお釣りが払えませんよ。エーンにしてくださいエーンに」


「いや、エーンがないからな。金貨やるから串1本くれ」


「え? だ、旦那? この金貨……本物ですぜ!」


「釣りはいらん。1本貰ってく」


「だ、旦那ぁあーー! 貰いすぎですぜぇーー!!」


蛇の蒲焼きか……。

初めて食うな。


「ムシャ……ムシャ……」


ふむ。肉は硬いが旨味があってクセも無く美味い。甘辛いタレも合ってる。

うーーむ。これはヤンディとかハンハーグも食うのだろうか?


さっきの屋台を奴隷にすれば一生食えるな。でも、断ったら殺さないといけないし……。


ドン!


「あ……!」


俺はアブラマンダラの城兵にぶつかり蒲焼きを落とした。

城兵は俺を睨み一括。


「何をよそ見をしておるか! 馬鹿もんッ!!」


「神樹槍」


城兵は一瞬にして大地から生えた鋭い神樹によって串刺しになった。


「グハァッ!!」


血だらけで絶命。


やれやれ、食えねぇ串刺しはいらんな。


「あ、そうか。こいつからエーンを奪えばいいんだ♡」


俺は絶命した城兵の懐から財布を探った。


「ウホ。あるじゃん2千エーンだ」


街中大騒ぎ。


「キャァッ! 死んでるわ!」

「お、俺見たぞ! あ、あいつがやった!」

「衛兵を呼べぇ!!」


城兵の死体に悲鳴が上がる中、俺は蒲焼きの露店に行った。


「おいおやじ、これで買えるだけ蒲焼きくれ」


「ヒィーーーー!!」


俺の手は血だらけ。2千エーンにもベットリと血がこびりついていた。


あ、しまったな。

殺した城兵から奪いとったから血が付いちゃったんだな。


さっきまで笑顔で威勢の良かった親父はブルブルと震えていた。


蒲焼き食いたいしなぁ。


俺が考えこんでいると街人が俺を指差し大声を張り上げた。


「こ、こいつです! こいつが城兵を殺したんです」


振りかえると人だかり。

屈強な身体をした衛兵が5人。大きな槍を構えて鋭い切先をこちらに向けていた。


「きさま! 何者だ!?」


「俺は魔お──」


いや、待てよ。

俺は魔王だって言ったら….。


みんなに笑われる。



皆殺し。



この街全滅。



参謀が見つからない。


「うーーん。えーーと……。蒲焼きを食いたかったんだ」


「「「「 ハァア?? 」」」」




◇◇◇◇




ーーアブラマンダラ刑務所ーー


俺は縄で縛られて椅子に座っていた。


「おい、いきなり刑務所かよ」


衛兵は怒鳴った。


「馬鹿が! 殺されなかっただけマシだと思え!」


「でもよ。俺があの城兵を殺したって証拠がどこにあるんだ?」


まぁ、殺したんだが……。


「そんなもんは街中の証言で裏が取れている!」


「俺はどうなるんだ? 牢屋に入れられるのか?」


「この国は法律が独特でな。先月まで、罪人は投獄されていたが、今月からは死刑が当たり前になった。だから本来ならば死刑なのだ!!」


「変な国だな」


「ば、馬鹿にするなぁ! 法律は全て蛇使いアブラマンダラ様がお決めになるのだ! 罪人は死刑! 今はこうなっておる!」


「ふーーん。じゃあなんで俺を殺さないんだ?」


「お前の目的を知る為さ……」


目的?


「蛇の蒲焼きを食いたかっただけだが?」


「ふん! そんな理由を本気で信じると思うか? お前がどこかの大きな国と繋がっていたら大惨事だ。スパイという可能性もある。戦争はできる限り避けなければならん。アブラマンダラ様は平和主義。死刑はお前の身分がわかってからだ!」


「プフッ! 平和主義って対応かよ!」


「黙れ!! 人殺しのくせに!!」


「人殺しねぇ……」


「その手の甲についたタトゥー。貴様は煙突掃除人か?」


「そう思う?」


「フン……」


衛兵達は1人の男を連れて来た。

大きな腹の中年で常に笑っている。


「ヒョホホホ。まさか私が刑務所に来るとは思いませんでしたよ」


変な奴。

幸せ太りなのかな?

随分と腹がデカい。

なんのストレスも無い、随分と裕福そうな奴だ。

俺が煙突掃除をしていた屋敷の主人は、みんなこんな奴だったんだよな。同じ臭いがするぜ。


衛兵は男に俺を紹介する。


「こいつは街中で城兵を殺したんだ。蒲焼きを食いたいとかなんとか言ってな。食べ物のことなら美食ギルドしかないだろう。心当たりはないか? グウネル・フランダール」


美食ギルド?

なんだその組織は?

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