第87話 金は百薬の長 【大臣ざまぁ】

俺は最後の仕事を終わらせるべくマグマホエールを宙に投げた。

その数、10体。

50メートルを越える巨体がブォンブォンと宙に舞う。


空気抵抗を考慮して頭から槍投げの原理で投げる。

目指すはママジャン王国の方角、20キロ先。

俺は神速で先回りしてキャッチ。

再び放り投げる。

それを繰り返して、2時間。

ママジャン王国に到着した。





ーータケルカンパニー倉庫ーー


グウネルは10頭のマグマホエールを見て満足そうだった。


「タケルさん、予定より、1頭多いようですが、まぁ私としては構いません。全部買わせていただきますよ。ヒョホホ」


「いや、違うんだ。悪いけど、1頭は自由にさせて欲しい」


「ヒョッホッ。そうですか、それは残念です」


グウネルは魔法銀行に全ての金額を入金してくれた。


マグマホエールを売って3千億エーン。

キャビアを売って3千億エーン。

合わせて6千億エーン。


こうして、1ヶ月足らずで目標金額の6千億エーンを達成したのだった。





ーーママジャン城ーー


俺は許可をもらって城の広間を貸切りにしていた。

その部屋の入り口の前に立ち、国王を招く。


国王は会議の途中で抜け出していたので、お供に大臣を連れてやってきて。


「タケル殿、急に呼び出したりしてなんの用事かな?」


「身体はどうだ? 国王」


俺の言葉に、大臣のチチカカが声を張り上げた。


「貴様! なんだその偉そうな口の利き方は!? 城兵の分際で許さぬぞ!」


国王は苦笑い。


「ハハハ。チチカカよ。構わぬ。タケル殿とは親しい仲なのだ」


「いや、しかし国王様! こやつは武術大会で優勝したとはいえ城兵ですよ! ただの城兵がママジャン国王にタメ口とは由々しき事態であります!!」


「タケル殿は優しくて頼り甲斐のある友人だと思っておる。一介の城兵扱いなどはとてもできんよ」


「し、しかしですなぁ……。まったく、城兵ごときがラッキーで成り上がったもんです」


やれやれ。

この大臣は面倒臭そうだな。


「タケル殿。おかげさまで、あの賭け試合で少しは元気になったようだ。しかし、まだまだ本調子ではないな。何せ損失額が大きすぎるからな」


「ならば薬が必要だな。この部屋の中に用意した」


「薬?」


大臣のチチカカは飛び跳ねて怒鳴った。


「一介の城兵が、またまた生意気な事を! 医者でもなんでもないお前が、薬など用意できるはずがないだろう!! 粗末な物を口にして、国王様のお身体を壊したらどうするんだ!!」


俺はドアノブを手に取って笑った。


「酒は百薬の長なんて言葉があるんだが、国王にとっての薬は、これしかないだろうと思ってな」


扉を開けた瞬間、国王とチチカカは目を見張る。

2人ともガクガクと震えて、膝から崩れ落ちた。



「「あ……あ、あああ……」」



そこにはタケルカンパニーで稼ぎ上げた6千億エーンが、広間一杯、山積みに置かれていたのである。


俺は眉を上げた。


「金は百薬の長」


国王は汗をダラダラと垂らす。

もう身体に力が入らない。


「な、ななな……なんだこの金は?」


「元気になったか?」


「げ、元気どころか、興奮が止まらん!」


「これで、デイイーアの火災で損失した6千億エーンは帳消しだな」


「いや、しかし、そんな……。ほ、本当にくれるのか?」


「あなたにとっては、どんな万病にも効く薬になるだろ?」


「どうやってこんな大金を……?」


「国王からもらった1千億エーンを元手にして、キャビアと蟹と鯨を売って稼いだんだ」


「そ、そんな……わ、私の為に? ろ、6千億エーンを私にくれるだとぉ!? そなた、1千億エーンでもあれば、城兵を辞めて、一生遊んで暮らせたのだぞ?」


「興味ないよ。仕事もせずにプラプラするのは性に合わないんだ。適度にのんびり働いて、優雅にお茶を飲む。そんな人生でいいんだよ」


「そ、それが、本心……。す、凄すぎる……」


「大したことはない。ただの城兵だ」


チチカカは、俺を指差して怒鳴るも、混乱して何を言っていいかわからなくなっていた。


「きさ……貴様は! じょ、城兵のくせに! こ、こんな、た、たた大金を! あ、あげるだと! ハグアッ! ブクブクハガハガ……」


泡を吹いて気絶。


やれやれ。どうやら自分の思考と、俺のやっていることがかけ離れすぎて、脳が混乱しているようだな。


国王は俺の両手を取った。


「頼む! マーリアと結婚してくれ!」


マーリアはお嫁さんギルドの加入者なのだが、そんなシステムをこの人に説明する訳にはいかんからな。

さて、どうしたものか……。


「頼む! 幸い、マーリアはそなたのことに夢中だ! そなたとマーリアが結婚して、このママジャン王国を継げば、この国は益々発展する!」


「ふぅ……」


と、ため息をついてから答えた。


「俺は城兵の仕事を気に入っている。たくさんの仲間もいるしな。俺が王子なんて、柄じゃないよ」


国王は土下座し始めた。


「タケル殿! 結婚はすぐに返事をもらえなくてもいい! しかし、この国の城兵になってもらえないだろうか!? そなたの母国であるスタット王国より何倍も優遇するから! 頼む! このとおりだ!」


「忠誠を誓った人を裏切れんよ。俺はスタット王国の城兵だ」


「そんな律儀な! そなたは凄い! 凄すぎる男なのだ! 欲しい! そなたが欲しいのだ! 頼む! 城兵が無理なら大臣はどうだ!? ここにいるチチカカよりも数100倍は優遇するぞ!」


これには、気絶していたチチカカは目を覚まして飛び上がった。


「国王様! それはないです!!」


「バカもんッ! お前にこれだけの大金を稼ぎ、それを気軽に人にあげる度量があるのか!?」


「1ミリもありません」


「タケル殿は私の身体を心配して、これだけの大金を稼いでくれたのだぞ!! にも関わらず、その対価は一切求めない!! こんな凄い人間がいるか!? こんな凄まじい城兵を見たことがあるか!?」


「ありません」


「貴様がこんな大金を稼いだらどうする?」


「一生遊んで暮らします」


「そうだろう! そうなるのが普通なのだ! それをこのタケル殿は惜しげもなく私にくれたのだぞ!! くぅッ!! それをチチカカ! お前はさっき、失礼極まりないことをほざいていたな! まずは謝罪だ! 土下座しろ! 1万回! いや、1億回土下座せぇ!!」


大臣のチチカカは号泣して俺に土下座した。

頭を床にゴンゴンと打ちつける。


「タケル様ぁ! 先程は失礼な事を言って申し訳ありまぜんでじだぁぁああ!!」


「タケル殿! このとおりだ! なんならチチカカは国外追放してもいい。だから許してくれぇ!!」


「気にしてないから大丈夫だ。チチカカさんも頭をあげてくれ。俺は本気で気にはしてないから」


「ああ、ダゲルざまぁ〜〜! なんとお優じい〜〜!! このチチカカ、あなたに身も心も捧げまずぅううう」


「いや、それはいらん」


ママジャン国王は再び土下座。


「タケル殿! どうか! どうか私の部下になってくれ! お願いだ! このとおりだ!! 頼む!!」



「断る」




「そんなぁあああッ!」


「国王は十分、元気になったようだな。俺の役目は終わったよ。これからもずっと元気でいてくれ!」


「タ、タケル殿ぉおおお!!」


俺は国王の声を背中に受けながら城を出るのだった。

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