第51話 俺の闘い

マーリアは凍っていた。

呪術士ジャミガから受けた氷の呪い。

それが身体から抜け切る前に最大限に使ってしまったからだ。

根付いた呪いは溶けない氷になるという。


俺は凍りついたマーリアに手を置いた。



「スキル闘神化アレスマキナ 灼熱血行!」


ズギューーーーーーーーーーーン!!


フルパワーでやってみる。

しかし、氷はいつまでも冷たく、湯気すら上がらなかった。湯気が出たのは俺の身体だけ。体温の発熱によって、俺の汗が蒸発しただけである。


「俺の手は冷たいままだ……。水で濡れていない。冷たいのに水で濡れないのか……」


常温のまま何度か触ると、手には僅かな湿気が生まれていた。

これはおそらく、空気中の水分だろう。

外気温の差で氷の表面に薄い水分が生まれ、俺の手に付着しただけだ。つまり……。


「この氷は溶けないのか……」


俺を見ていた女の子は不安げな顔を見せる。


「お兄ちゃん……」


俺はニコリと笑って見せた。

不安を拭い去るように、頭を優しく撫でる。


「大丈夫だ。俺に任せておけ」


「うん!」


とは言ったものの。

うーーむ……。

溶けない氷というのは本当のようだな。


ならば……。


俺は氷に手を当てると、両手に力を込めた。


破壊を試みる!


「スキル闘神化アレスマキナ 神 砕 破 !」



キィイイーーーーーーーーーーーーーン!


超振動が硬い氷と共鳴して、高音域の音を出した。


本来ならばこの超振動で氷は粉砕されるはずだが……。


カタ……カタカタ……カタカタ……。


僅かに氷全体が揺れるだけか……。

傷一つ付けれんな。


しかし、待てよ。

揺れるならば外界からの力に干渉しているということだ。試しに持ってみる。


「スキル闘神化アレスマキナ神腕」


ガシ…………ッ。


「ふむ……軽々と持てる」


氷はマーリアの表面を覆っているが、持ち上げは可能。

つまり、外の力には反応するが、決して溶けないということか。


都合が良過ぎるな。

神界域の力に近い。つまりスキル闘神化アレスマキナに似ているのだ。

スキル闘神化アレスマキナ 神腕は俺の腕を闘神の体に変化させるスキルだ。

神腕に触れた物体は、その重量や力量を限りなくゼロにして持つことができる。

だから、以前、キングエルフが放ったS級の矢攻撃、フレアアローでさえも軽々と掴むことができたのだ。

神の力は人間の理解を超えている。物理法則を無視した力だ。


そしてこの氷。

外側からの力の影響は受けながらも、決して溶けないでいる。これもスキル闘神化アレスマキナ同様、物理法則を無視している。


しかし、完璧ではないな。

触れたり、持ち上げたりができるのなら、常に外界からの力の影響を受けていることになるのだ。差し詰め、神の呪いといったところか。


神の呪いには神の力だ。


これはスタット城にいた学者に聞いた話だが、物質は原子というとても小さな存在で構成されているという。

その原子は原子核を中心に電子が回っている。電子の動きが止まると、物質は形を無さない。


まぁ、要するに、この溶けない氷も、原子で構成させていて、原子核を電子が回っているから存在するということだ。持ち上げたり、揺れたりするのはそういうこと。


ならば、その電子の動きを止めれればどうだ?



「うむ。答えが見えてきたぞ……」



俺はマーリアから1歩だけ退く。



「マーリア。必ず助けてやる」



身体中に張り巡らせらた神の毛細血管、神血線。

全身全霊をそこへ集中。

神界域とリンクした体は闘神へと変化する。


マーリアは呪いの力を使って人々の命を救った。

命をかけて自分の運命と闘ったのだ。

彼女は大勢の街人の命を救い、自分との闘いに勝った。




「俺の闘いも見せてやる」




闘神の体に変化するのは短い時間しかできない。

人間の命が抵抗となり邪魔をするからだ。

しかし、俺に与えられた天命限界をエネルギーとして闘神の体を限界まで保持する。

つまり、命を削って闘神の力を限界まで引き出す!



「ハァァァァアアアアアアアアアアアアア!!」



俺の身体に真っ赤なオーラがまとう。





「スキル闘神化アレスマキナ 限 界 突 破 ! 」





全身を闘神の体と化し、限界値を超える。

腕を動かすだけでスキル神腕を使える状態となった。


連撃体勢に入る。

通常の神腕であれば1秒間に900発の打撃であったが、限界突破を使えば……。



連撃開始。




「1秒間に億を超える」




それは音速を超え、光速さえも凌駕する。

打撃音は超音波となり無音。



「プラス。スキル闘神化アレスマキナ 神 砕 破 !」



俺を見ていた女の子の髪がわずかに揺れ、一瞬だけ辺り一面が真っ赤に点滅した。




「電子の動きを止める!」




子供では理解不可能な光景であったが、感嘆の声が漏れる。



「わぁぁああ…………。氷が……ひび割れていく……」



次の瞬間。



パリーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!



絶対に溶けない氷は、いとも簡単に粉砕した。

マーリアは俺に抱きつく。



「タケル様ぁ!!」



彼女は俺を強く抱きしめた。

胸いっぱいに空気を吸い込み、叫ぶ。



「タケル様。私、見ていました! 凍った私を助けてくれる、あなたの姿を!!」



俺は興奮する彼女の頭を優しく撫でた。



「マーリア。よくがんばったな」


「私……私ぃ……」


感極まった彼女は滝のように涙を流す。




「タケル様ぁ…………。タケル様ぁぁあああああああ」




彼女は命をかけた。

それは、人を助けたいという正義感だけではないだろう。

姫という立場、女という性別。

マーリアは自分の運命とも闘ったのだ。


闘う者は美しい。


心の底からそう感じた。


俺は何も言わず、彼女の背中を優しく摩ってあげるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る