第49話 闘うマーリア

〜〜マーリア・ママジャンの視点〜〜


私の名前はマーリア・ママジャン。

ママジャン王国の姫だ。


私の国では不気味な病気が流行っていた。

身体が凍ったり、燃えたりする病気。

調べると、それは呪術士ジャミガの呪いだとわかった。

私はすぐに父に相談をした。



「お父様! 国民が苦しんでおります! 呪術士ジャミガを捕まえてください!」



父は決まりが悪いように私を一瞥。自慢の髭をさすった。


「マーリア……。国の治安は自警団並びに城の衛兵が取り締まる。女のお前が心配することではないのだよ」


「それはわかります。しかし、お父様は一向に動こうとしないではないですか! 国民が困っている時にこそ、王の采配で——」


「マーリア。お前は一国の姫なのだ。ダンスの練習でもして、金持ちの隣国の王子と結婚しておくれ。それがママジャンの国民にとって一番良いことなのだよ」


「国民が苦しんでいるというのに、王族の私がダンスの練習をして、結婚するなんて考えられません!」


「マーリア。お前は姫であり、女の子だ。そんな物騒なことを言ってはいかん。戦うのは男の仕事だ」


「姫でも女でも、戦えます! 国のことを考えるのは大切なことです! 性別など関係ありません!!」


「マーリア! 私は国の仕事で忙しいのだ! 部屋に戻っていなさい!!」


「私は戦います!!」



私は2人の従者を連れて呪術士ジャミガを追って旅立った。

しかし、ジャミガの力は凄まじい。

勇しく立ち向かった私達はあっさりと負けてしまう。

従者はネズミに変えられて、私は氷の呪いをかけられた。


私はジャミガとの戦いに敗れたのだ。

いや、父に豪語した自分に敗北したといっていい。

絶望した私は自殺を決意する。


しかし、その時、救世主が現れた。

スタット王国の城兵。タケル・ゼウサード。

颯爽と現れて、私の命を救ってくれた。

終始紳士的で、とても優しく、私の話を聞いてくれた。


あんなにも心が和んだのは生まれて初めてだ。

そしてなにより、彼は私を否定しなかった。

彼は私を認めてくれたのだ。



「闘う者は美しい」



呪術士ジャミガとの戦いは、いつしか、自分の運命と闘うものに変わっていた。

タケル様が救ってくれたこの命。

私に闘うチャンスを与えてくれたのだ。


「ハァーーーーーーーーーーーーーーッ!!」


私の両手から呪いの冷気が発せられる。

それにより火事を消すことができた。

移動は氷で作ったスケート靴。

自分の目の前を凍らせて道を作り、スケート靴で移動する。


体中のいたる所から、青い血管が浮き出ていた。

もう長くない。

氷の呪いが進行しているのだ。

マーリアは根付いた呪いは溶けない氷になるといっていた。

あとどれくらいの時間があるのだろう。

少しでも国民を助けてあげたい。

これが私の与えられた使命。いや、タケル様が与えてくれたチャンス。


目の前で泣いている中年男性がいた。

眼前の家は燃えている。


「大丈夫ですか!? 怪我をしたのですか?」


「わ、私は大丈夫だ! は、母が! この家の中に母がいるんだ!」


私はすぐさま冷気を出して消火した。


「ハァーーーーーーーーーーーーーーッ!!」


凍った家は鎮火した。

この人の母親は焼け焦げた部屋の奥から顔を出す。


良かった! 生きていた!

男はまた泣いた。


「奇跡だ! あなたは命の恩人です!!」


「良かったです! では!!」


「待ってください! お名前を——」


男の声を背中に受けて滑走する。


助けよう。1人でも多く。

ああ、これが生きているということなのね!!


「ハァーーーーーーーーーーーーーーッ!!」


私の冷気で火事がどんどん鎮火する。


「ハァーーーーーーーーーーーーーーッ!!」


ありがとうタケル様。



「ハァーーーーーーーーーーーーーーッ!!」



すると、また、燃え盛る家の前で泣いている人がいた。

今度は小さな女の子だった。


「お父さん!! えーーーーん!!」


私はすぐさま手をかざす。

しかし——


「!? 冷気が出ない!?」


すると手は完全に凍っていた。

もう指すら動かすことができなかった。


「えーーーーん!! えーーーーん!!」


せめてこの子のお父さんだけでも!


私は最後の力を振り絞る。


「ハァーーーーーーーーーーーーーーッ!!」


しかし、無情にも私の手から冷気が出ることはなかった。

手から硬い氷が私を覆い始める。


パキ……パキパキ……!!


ああそんな! 神様!!

せめてこの子だけでも救ってあげてください!!

どうか!! お願いします!!


パキパキパキ…………!!


私の全身を分厚い氷が覆う。

もう声も出せない。

私は永遠に溶けない氷に覆われて死ぬのだ。


すると突然。



ザァーーーーーーーーーーーーーー!!



と大雨が降り出した。


奇跡だ。


凍った私の目の前で奇跡が起こった。


これで目の前の女の子は救われる。そして、この街も!


ありがとう神様。私の最後の願いを叶えてくれて。



スタン……!



それは誰かが着地する音。

雨と、凍っている私の視界ではよく見えない。

でもどうやら、1人の男が、空から降りてきたようだ。

男は、鎮火した家の中から女の子の父親を助け出した。


神様?


しかし、その答えはわからない。

私は完全に凍った。

決して溶けない氷の中で、私の意識は消え去るのだった。

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