第31話 みんなで作戦会議 【グレンざまぁ回】

ーー温泉宿ザパン 朝ーー


俺達はみんなで集まると、朝食を終えて、そのまま食堂で作戦会議となった。

僧侶のリリーはスタット王国の犯罪者ファイルを読みながら険しい表情を見せる。


「呪術士ジャミガは暗くジメジメとしたところを根城にしているようですよ」


なるほど、時計台の天辺で見た時の印象と同じだな。陰湿な性格と好んで住む場所は比例している。


勇者グレンはテーブルにドンと足を乗せた。


「この街は人口10万人もいるんだぜ。暗くジメジメつってもよ。んな所は一杯あるぜ」


確かに、探すには広すぎるな。


戦士ゴリゴスはその大きな腕を上げて頭をかいた。


「それは、みんなで手分けして探すしかないでごんすなぁ」


「ゲェ〜〜。ざけんなよ筋肉! んな疲れることやってられっかよ! お前達で探せよなぁ。居場所さえ見つければよ! 俺がチャチャっと捕まえてやっからよ! まぁ、間違って殺っちまうかもしんねぇけどな。なにせ俺の力は規格外に凄まじいからな! ケヘヘ!」


この悪態に免疫のないマーリアは顔をしかめた。

俺に耳打ちする。


「タケル様。あの方は本当に勇者なのですか?」


本当に勇者なのだから困る。

しかし、全属性の魔法が使えたり、勇者しか使えない勇者魔法や勇者スキルが使えたりと能力は高いのだ。そう、彼は基本スペックが高い故に国王から勇者に任命されたのである。


「……奴は正真正銘の勇者だ」


「……なんだか見るに耐えません」


確かにな。

全属性の魔法が使えるくせに、覚えている魔法は少ない。回復魔法が使えるはずだが、習得しないで、いつまでたっても僧侶リリーの世話になっている。

勇者スキルといったらブレイブスラッシュのみ。

素質があるくせに、その10分の1も力を出し切っていない。というか出そうとせずに今のままで満足している。

やれやれ、俺は不本意であったが、国王から勇者の面倒も見るように言われていたからな。

この旅で少々甘やかし過ぎたかもしれん。

クビになった身分だが、少し、教育してやるか。


シシルルアは街の地図をテーブルに置き、みんなでジャミガを探す為に割り振りをしていた。


やれやれ、シシルルアがもう完全にリーダーと化している。


俺は目を細めた。


「グレン。お前、このままでもいいのか?」


俺の言葉にグレンは目を剥く。


「なんだぁ〜〜! てめぇコラァ! 一介の城兵が、俺様に文句があるのかぁ?」


「ある!」


「は!? て、てめぇ、この野郎! 何が文句があるってんだよ!」


「呪術士ジャミガの逮捕はなんの為にやるのだ? 俺の為か?」


「馬鹿いえ! んな訳あるかぁいッ! お前の為なんか死んでもやらねぇ! 俺の名声を高め……いや、デイイーアの街人の為に決まっているではないか!」


グレンは前歯をキランと光らせた。


マーリアは再び耳打ち。


「今、自分の名声を高める為ってハッキリ言いましたよ!」


まぁ、そんなことは分かりきっていた。

シシルルアの才覚で上手く誘導したに過ぎん。

しかし、俺がいる限りは、シシルルアの負担を減らしてあげねばならんな。

教育開始だ。


「グレン。リリーが情報をくれたのだから、それを元にお前がみんなを誘導しないでどうする。少しは自分の頭を使ったらどうだ。このままではシシルルアのパーティーと呼ばれてしまうぞ。ジャミガを逮捕しても彼女の手柄になってしまうかもな」


グレン真っ赤。


「なっ……! て、てめぇこの野郎……。じょ、城兵のくせにぃい!!」


「城兵の身分は関係ないだろう。冷静に判断しろ。論点をすり替えるんじゃない」


「ぐっ……! こ、このぉおお」


グレンは渋々、テーブルに広げられた地図を見つめた。


「えーーあーー。薄暗いっつたらどこかな? 風俗街は薄暗いけどなグフフ」


やれやれ。

ま、これで少しは頑張ってリーダーらしくなるだろう。


俺が鼻で嘆息していると、横に座るマーリアはプルプルと震えた。


「タ、タケル様は本当に城兵なのですか?」


「……ああ。それがどうかしたのか?」


「勇者に意見するなんて凄過ぎます! しかも筋が通っていて、言うことを聞かせてしまう! もう素敵過ぎます! カッコイイです!!」


そう言って俺の腕に抱きつく。


「お、おいマーリア!」


それを見たリリーは作戦会議中だというのにガタンと席を立ち上がった。


「あーー! マーリアさん狡いです!」


そして、俺の元へやって来ると首元に抱きついた。


「いや、リリー! なぜそうなるんだ」


気がつけばシシルルアまで横に来ており、無言で俺の手をそっと握りしめていた。


「なぜシシルルアまで!?」


それを見たグレンが爆発したのは言うまでもない。


「てめぇこのぉ! 城兵の癖になんでそんなにモテるんだよぉぉぉおおおおお!! せめてシシルルアは離れろぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


シシルルアはそんなグレンを無視して俺の肩に身体を寄せる。


グレン絶叫。


「シシルルアァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


女々しくも目に涙を滲ませる。

戦士ゴリゴスは、そんなグレンの肩にそっと手を乗せるのであった。


「グレン様にはおいどんがいるでごんすよ」


「ざけんなゴラァァアアアアアア!!!!」

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