第22話:5-4;この世界のジウかな

 街を元気なく歩くコオ。

 いつもどおりの妖精。

 2人は会話する。


〈どうして冒険者登録しなかったんですか?〉

「なんで登録しなくちゃいけないんだ?」

〈まあ、したくないのなら別に〉

「はあー」


 歩く屍となったコオは息を吐いていた。生きる気力がない。


〈これで信じてもらえたのかな、君が生まれなかった世界になったことを〉

「ああ」


 コオの返事には生気がなかった。

 数分の間、妖精の言葉に対してコオが生気のない返事をする会話が続いた。

 ……

 すると、町の大きな広場がに出た。


「なんだ、ここは?」

〈君、ここを知らないのか?〉

「俺がいない世界にしかない場所か?」

〈そうではないよ。ここは前の世界でもあった場所さ〉

「へー、知らなかった。なんの場所?」


 コオはなんとなく聞いた。会話が途切れたから天気を聞くくらい理由のない質問だった。


〈は・か・ば〉


 冷たい風が通った。妖精の小悪魔的な言い方は気になったようだ。


「……墓場」

〈そう。ここは冒険者たちの共同墓地。冒険でなくなった者たちの魂を鎮める場所だ〉


 よく見ると、いたるところに墓石がズラーっと並んでいた。たしかに墓場だ。


「そうか。そうだよな。冒険って、そんな甘いものではないよな」

〈そうさ。だから、墓があるんだ〉


 コオは墓場に入っていっていろいろな先駆者の名前を見ていった。自分と違い立派な人たちだったのだろう。知らない名前ばかりで少し安心していた。


「こんなにたくさん……よく名前がわかったものだ」

〈そうだな。身元不明でないだけましだな。そこは冒険者カードという人類の英知のおかげだな〉

「それを言ったら、この墓場だって人類のえ……」


 コオはある墓場の前で立ち止まった。


〈どうした? 英知、という言葉が出てこなかったのか?〉


 妖精の発言をコオは聞いていなかった。ある墓をジーッと見ている。


「ど、どうしてだ?」

〈? どうした?〉


 身動き1つしないコオに妖精は聞いた。それに対してコオは震えて絶望に陥っていた。


「嘘だろ?」


 コオは硬直する。どうしたものかと妖精はコオの視線の先を見て、納得した。


〈ああ、なるほどな〉



『剣士ジウ ここに眠る』



 その墓石の前で、コオは崩れ落ちた。知り合いのジウが亡くなっていたのだ。


「こ、こんなことが……」


 膝をつき倒れるコオの後ろで妖精は説明した。それは親切心から来るものだった。


〈ジウはすごく優秀な剣士だった。万全の状態ならどんな相手でも負けないくらいにな。しかし、あるときに古傷が痛んだ。昔に夏祭りで壁に押しつぶされたときにできた傷だ。前の世界では君が助けたからつかなかった傷だ。その傷が強敵との戦いのときに再発した。敵はその隙を逃さなかった。その古傷を集中狙いされたジウは、不幸なことになった〉


 妖精はできる限りマイルドに説明した。それが返って残酷な結果を際立たせた。コオは頷くことも返事することもなく、ただそこに崩れていた。慟哭とは正反対の状況だが、返ってコオの心情を際立たせていた。

 風は涼しい。

 空は暗い。

 大地は曇る。


「――ナオは?」


 コオは言う。頭に浮かんだのだろう。


〈……〉

「ナオはどうしたんだ?」


 コオは不幸に苛まされた顔でいた。ここまで知り合いに不幸があれば、気になるのだろう。


〈……〉

「ナオはどうしたと言っているんだ!」


 コオは地獄の雄叫びを発した。嫌な予感をしているのだろう。


〈……聞きたいのか?〉

「知っているんだな!」


 顔をそらす妖精をコオは捕まえた。必死の形相。


〈……知っているといったら知っている〉

「じゃあ、教えてくれ」

〈……いいのか?〉

「いいに決まっているだろ!」

〈……わかった〉


 暗い顔をした妖精をコオは離した。そこには強く握った跡が付いていた。

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