第665話 晴れ、時々、ツンデレ流星群

 エルピス。


 地球上で観測された、コロニーの名前だ。


 恒星間の航行をしており、今は自分たちの仲間であるカペラが、ようやく帰ってきたことから、次の目的地を話し合っている。


 その風景は、どこかの私立高校の生徒会室……。



 高校生には不釣り合いな、テーブル。

 それを囲み、10人ほどの女子が、座っている。



 夏用のセーラー服を着ている女子、ルイザは、生徒会長の席。


 黒髪ロングで、赤目。

 しかし、おっとりした顔立ちで、厳しい雰囲気ではない。


「カペラには、困ったものね? いきなり飛び出したかと思えば、今度は室矢むろやくんを連れ込むし……。ミーティア女学園は、男子禁制なのに」


 生徒会長は、自分の席に座ったまま、外を見た。

 時刻は、朝の7時だ。


 学校らしい設計で、窓がズラリと並び、校庭や、街との境目である塀。


 登校中の女子たちが、歩いてくる。

 夏のようで、セミの鳴き声も、遠くから聞こえてきた。



 風紀委員長の席に座っている、リディア。


 明るい茶髪で、ツインテール。

 いかにも気が強そうな美少女は、青い目を輝かせて、生徒会長に突っ込む。


「今のあたし達は肉体を捨てて、男子は必要ないわ! カペラが『どうしても!』と言うから、黙認したのよ!? 寮、プールと更衣室、教室に、保健室、体育館! どんだけ、盛っているんだか……」


 図書委員長の席には、茶髪の上品なボブで、茶色の瞳をした、気弱そうな少女。


「え、えっと……。私たちの旅路と、室矢くんの寿命を考えたら、今生の別れになるのだし。そ、それぐらいの逢瀬おうせは――」

「ジュリエットは、ちょっと黙ってて!」


 言われた女子は、ピッ! と鳴いた後で、黙り込む。


 それを聞いていた、放送委員長のシアーラが、テーブルに肘をつきながら、だるそうに発言。


「どーでも、いいんだけどさー? 次の目的地を決めない?」


 赤みがかった黄色の髪で、外ハネをしているボブ。

 黒目の女子が言って、ようやく、生徒会室の雰囲気が変わった。


 生徒会長のルイザは、テーブルにいる全員を見回す。


「皆も知っている通り、私たちは母星を失い、このエルピス号で移住先を探している状況……。地球は悪くないけど、すでに文明を築いた勢力がいるうえ、カペラのお気に入り。別の星系へ移動するわ! そこは、異論ないわね?」


「いいわよ」

「はい」

「うん……」


 ここで、ルイザは、呼吸を整えた。


「えっとね……。怒らないで、聞いて欲しいのだけど……。カペラは、室矢くんが死ぬまでは、地球に残るって。だから――」

「はあぁあああっ!? ふざけないでよ! カペラが最後のお別れをするから、この超空間へ招いたんじゃない!! 無制限で、パンパンさせるためじゃないわよ!」


 慌てたルイザが、風紀委員長のリディアをなだめる。


「落ち着いて! だから、カペラの気が済むまで待つか、すぐに出発するか――」

「冗談じゃないわ! もう、いい!!」


 立ち上がったリディアは、スタスタと、出口へ。


 ルイザが、強い口調で詰問する。


「待ちなさい! どこへ、行くの!?」


 立ち止まったリディアは、振り向いた後で、告げる。


「決まってるわ。決戦兵器ヘーロースを出す……。風紀委員会のルフスだけで、やるから。4機も出せば、あんな原始生物の星なんて、簡単に制圧できるわよ?」


 バシュッという音で、横にスライドしたドアが、閉まった。



 ◇ ◇ ◇



 太陽系から遠く離れた、星域。


 安定したラグランジュポイントに停泊している、小型のコロニー。

 エルピスから、4つの光が飛び出した。



 光速を超えたスピードで接近したカプセルは、一気に減速。

 それぞれに別の場所へ、流星のように、落下していく……。



 ミーティア女学園の風紀委員会を仕切っているリディアが、連れてきた風紀委員3人に指示する。


『さあ、格の違いを教えてあげるわよ!』


『ハーイ!』

『眠い……』

『早く、済ませましょう』




 ――US宇宙軍のステーション


 地球の軌道上で、狭い空間の住み込み。


「何でしょうね、これ?」

「分からん……。ともあれ、応答がないんだ。攻撃!」


 マニュアルに従い、ロックオンから迎撃ミサイルを撃つ。


 降下していたカプセルが、爆炎に包まれ――



 15mほどの、巨大ロボットが現れた。


 真っ赤に塗装されている、中世の騎士だ。

 その機体は、芸術品のような装甲を持ち、その指先をステーションのほうへ向けた。


 仰向けで落下しながら、通信を入れる。


『死にたくなかったら、脱出しなさい』


 ツインテールの美少女は、一方的に切った。

 

 夏用のセーラー服を着て、風紀委員長の腕章をつけている女子。


 宇宙ステーションの指揮官は、対応できない。

 振動と爆発音によって、他の選択肢は失われた。




 コックピットにいるリディアは、愛機のアストラペーの中で、愉快そうに笑った。


『ハハハ! 私に、ちょっかいをかけるから!!』


 電子機器の中にいるため、傍から見れば、人が乗るべきスペースは無人のまま。

 操縦桿そうじゅうかんやボタンが、勝手に動く。


『ん? これは、地上とのエレベーター? 原始生物が……生意気なのよ!』


 赤い騎士、アストラペーは、右手に長いソードを持った。


 どのような原理か、振り抜いたソードは、地上と宇宙を繋ぐチューブのような物体と、軌道上のステーションを破壊する。



 成層圏に入ったリディアは、青空の中で、地上を見た。


『さーて……。あの室矢重遠しげとおって男子は、日本だっけ? じゃあ、そこを制圧すれば、それで終わり♪』


 アストラペーは、恐ろしいスピードで、降下していく。



 

 ――北米


『エンジン、停止! だ、脱出します!!』

『ミサイル、同じく噴射を停止! 作動しません!?』


 リディアと同型の、赤い騎士。


 そのコックピットで、15mの高さから見下ろす女子は、風紀委員の腕章をつけたままで、つぶやく。


『うへえ……。まだ、内燃機関による推進力に、頼っているの!? 野蛮すぎ……。ちょっと、アトラクタ・フィールドを展開しただけで、何もできないって……』


 ドン引きの女子は、どんどん墜落していく戦闘機の群れや、ミサイルを眺める。


『まあ、生徒会長が「殺すな」と言ったから、それは守るけどさ……。およ?』


 遠方からの砲撃で、アストラペーは、よろめいた。


 お返しとばかりに、片手を振るえば、その衝撃波が自走砲の群れを襲い、後方へ吹き飛ばす。




 ――欧州


 器用に、人がいる部分を避けての、斬撃。


 15mの騎士は、転がる残骸と人間を踏み潰さないように、時速100kmを超えるスピードで駆け抜けていく。


 瞬間移動のように現れたアストラペーが、上空1万mから爆撃しかけていた航空機の片翼を切り飛ばした。


『はい、脱出して~』


 眠そうな女子の声を聞くまでもなく、クルーは大急ぎで、脱出を始めている。




 ――ペテルブルク


 戦車からの集中砲火は、全て空振り。

 後ろにある建物や、橋を壊す。


 15mの騎士が、赤い閃光を残しながら、その機甲部隊を踏み潰し、あるいは、蹴り飛ばした。


『……これ、死んでないわよね?』


 極寒の大地に足跡を残すアストラペーにいる、電子の妖精は、独白した。


 次の瞬間に、上空をパスした戦闘機に対して、すれ違いざまに尾翼を切り飛ばす。


 クルクルと回転しながらも、座席が上空へ射出されたことを確認して、一安心。




 ――東京


 渋谷のスクランブル交差点に、巨大なロボットが立っている。


 15mの騎士と言うべき姿で、右手にロングソード、左手にシールド。

 優美なプレートアーマーを身に着けている姿。



「マジ?」

「すげー!」


 スマホのカメラを向けている若者が多く、風紀委員長のリディアは辟易した。


『何、こいつら? ……ともかく、宣言ね』


 近くの大型モニターをジャックして、女子高生としての姿を出した。


『あーあー? こちらは、エルピスのミーティア女学園よ! この星は、たった今、私たちの支配下に置かれたわ! 今後は――』

「ウケるww」

「何、これ? ドッキリ?」

「テレビカメラは、どこよ?」

「どこの店だ? ネットにはないぞ?」

「お触り、それとも、泡?」


 茶化されたことで、操縦席にいるリディアは、激怒した。


 アストラペーの左手に持つシールドを叩きつけ、近くのビルにある大型モニターを割る。


 その破片が地上へ降り注ぎ、フワフワしていた若者たちが悲鳴を上げつつ、遠くへ逃げていく。



『仕方ない。猿が理解できるまで……生徒会長?』


 同じ決戦兵器ヘーロースの反応に、リディアはそちらを見た。


 巨大な騎士も、それに従う。



 そこにいたのは、同じサイズで、薄い青がかった白い騎士。

 アストラペーよりも細身だが、両肩のアーマーなどで、威圧感がある。


 識別を見たリディアは、目を剥く。


『カペラと……室矢重遠!? あの優等生。新型のミーディエイターを出してきたの?』



 スクランブル交差点のコンクリートを大きく凹ませ、2機の巨大ロボットが向き合う。


 お互いに武具を構えたまま、挑発する。


『今、帰れば、手を出さないわよ?』


 カペラも、それに負けない。


『リディアこそ、今すぐに帰れば、なかった事にしてあげる!』

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