第10話 新聞をきちんと読むのは調査としても大事
会話の主導権を握っている
そうだな……。
「あの一軒家の過去と、現在の所有者を調べよう! もしカレナの仮説が当たっていたら、あそこに禁忌の知識が眠っている可能性が高いわけだ。人々を破滅させる元凶を見つけた以上、速やかに排除する」
俺の決断に、
――翌日
俺たちは、例の一軒家があるエリアの図書館にいた。
狙いは、その土地の歴史が分かる郷土資料、それから過去の行方不明者の地域版だ。
平日であるものの、私服だから悪目立ちはしていない。
俺は、マイクロフィルムを閲覧して、地元の新聞の記録を流し読み。
一軒家が建った後で、図書館に保管されている日付からだが、こういう作業は神経を使う。
1時間ぐらいで頭が痛くなったから、暇そうにしていたカレナに任せる。
すると、本当に読んでいるのか、と疑いたくなるスピードで送り続け、あっという間に終わった。
気分転換に、今日の新聞を読んでみたら、“廃墟となっている一軒家に多数の不審者が侵入したことで、地元警察は見回りを強化” という記事が載っていた。
あの一軒家に忍び込むのが、一気に難しくなったな……。
分担していた作業を終えたのか、詩央里とカレナがやってきた。
公共の場所で話せないため、俺たちの自宅がある高級マンションへ戻る。
◇ ◇ ◇
俺の家のリビングで、買ってきたお菓子とジュースをいただく3人。
頭を使う時には糖分が必要と言うが、体に染み渡っていく気がする。
南乃詩央里は、あの一軒家の所有者が見つかったと報告。
同じく登記情報によって、本人が住んでいる物件も突き止められた。
いっぽう、義妹の室矢カレナは、過去の新聞から一軒家の周辺で行方不明になった人物をリストアップ。
オカルト系のライターである
よく考えてみたら、俺だけ何の成果も挙げていない。
しょげていても仕方ないので、ブレインストーミングで自由に意見を出し合いがてら、今後の方針をまとめることに。
俺は、自分の考えを率直に述べた。
「最優先で、現在の所有者に会うべきだろう? こいつが魔術書を理解している魔術師ならば、すぐに確保、または無力化しなければならない」
詩央里とカレナが同意したので、一軒家の処遇についての考えを言う。
「
俺は、警察があの一軒家の見回りを強化していると、補足した。
話を聞き終わった詩央里は、千陣流に支援を頼みます、とだけ言って、電話をかける。
カレナは、特に反対することもなく、やはりポテチはうす塩が一番じゃ、とマイペース。
セントリー警備会社の課長に、話をしてみようか?
そう思いついた俺は、課長に相談してくると言い残して、自宅を後に。
◇ ◇ ◇
セントリー警備会社に出向いた俺は、課長に直訴してみた。
忙しそうにしていたものの、例の一軒家の話と聞いた途端に、密談ができる会議室へ場所を移す。
「
アラフォー寸前のおっさんである課長は凡庸な笑みを浮かべながら、俺に話を促した。
「はい。あの一軒家に危険なものが眠っているようで、それを回収するつもりです。しかし、警察が見回りを強化していて、どうにも手を出せません」
俺がストレートに言うと、課長は頭をかいて考え込んだ。
「あー、その話ね。所轄にもメンツがあるから、好き勝手されたまま放置できないわけで。……すぐに動かないと、まずい?」
課長がこちらの様子を窺うように、おそるおそる問いかけてきた。
ほとぼりが冷めるまで待てない? と言いたいのだろう。
俺は、結論だけ伝える。
「曜ちゃんの次の失踪者が出ますね。ついでに、動く死体か、ガチで発狂する人間もどんどん出てきます。俺としては、見回りの警官が犠牲になることを危惧しているぐらいですよ。見ただけでヤバい案件だから、どこまで被害が広がるか見当もつきません」
ぎょっとした顔になった課長が、小さな声で話しかけてきた。
「マジ?」
それを聞いた俺は、大真面目な顔で頷く。
課長は両腕を組んで唸っていたが、やがて俺のほうを向き、提案してきた。
「あの一軒家の所有者が、どう言ってくるのか……。悪いんだけど、所有者の許可をもらってきてくれない? 見回りについては、僕が友人に気をつけるよう、言っておくからさ」
俺は、課長に聞いてみた。
「一軒家の所有者が行方不明で連絡が取れなかったら、どうしたらいいですかね?」
課長は、すぐに返答をする。
「それなら、あの一軒家に誰かが入り込んでも、すぐに訴えてくることはないと思うよ? 見回りの警官に捕まったら、かなり絞られるけど」
◇ ◇ ◇
自宅に戻った俺は、相変わらずゴロゴロしている義妹の室矢カレナを見ながら、あの一軒家の所有者と話し合う必要があると説明した。
その時、色々な手配をしていた南乃詩央里が、口を挟んでくる。
「あのですね、若さま……。その所有者はどうやら長い間、留守にしているようで」
倉庫代わりにしているのか、それとも、無関係な一般人を始末して成りすましか。
いずれにせよ、家探しだな!
魔術師の疑いがある室星大樹の自宅は、意外にも安アパートだった。
金のない学生が入居しそうな、玄関の扉を開けたら外にダイレクトアタックする構造だ。
玄関の横に細長い窓と換気扇があるから、台所とトイレ付きの物件か。
大理石がふんだんに使われている俺たちの高級マンションと比較したら、何という格差社会だ。
ガチャ
「あれ? お前ら、こんなところで何をしているんだ?」
お前、ここに住んでいたのかよ……。
アパートの前で
飲み放題のドリンクバーと、ちょうど夕方だったので定食も。
事情を聞いた航基が、そうかと
少し考えた後、室星大樹について知っていることを話す。
「俺は、ご近所付き合いがなくてさ? まあ、見ての通りの単身用で、どいつも仕事から帰って寝るのが目的の安アパートとだけ……。役に立てなくて、すまない」
俺が気を遣って、お前の分を出そうか、と言ったが、断られた。
好きな女の子の前で、他の男に奢ってもらうのは、プライドが許さなかったのだろう。
航基はかき込むように食べて、自分の勘定をテーブルに置き、もうすぐ準夜勤のバイトだからと言い残し、立ち去った。
詩央里が、悲しそうな表情で呟く。
「悪いこと、しちゃいましたね? 外食するのも、キツそうだったのに」
あいつにとっては、同情してもらいたいわけではないだろう。
安アパートを見た直後だと、哀れに感じてしまうのは仕方ないにしても……。
これで、あいつを俺たちの高級マンションに招いたら、闇墜ちしそう。
おっと、くだらないことで時間を潰している暇はないんだった!
俺は詩央里に命令して、前のように猫又を出させた。
「若さま、一足遅かったかもしれません。遠方へのチケットを手配した痕跡があります。今日はもう立ち入れないので、あのアパート、それから一軒家に見張りをつけます。明日の昼に引越し業者を装い、手早く家探しするのが良策かと」
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