勇者対決2

 漆黒の勇者アシュリー、紺青の勇者ファナン。

 突如として始まった「1年1組最強決定戦」。その決勝に勝ち上がったふたり。

 大陸の最高戦力として有名な2つの家を継ぐふたりの戦いとあって、観客の盛り上がりも最高潮だ。

 【特級身体強化】のアシュリーと【瞬天】のファナン。日頃からどちらが強いのかと、あちこちで論争を引き起こしてきた。

 歴代の勇者の記録を紐解けば、訓練そして両者が戦ったことはある。分かっているだけで戦績は漆黒の22勝、紺青の19勝と、それなりに拮抗している。今日の結果次第ではその記録が更新されることとなる。


 が、当の二人はそんなこと露知らず。面白そうな対戦になったと呑気に考えている。


「アシュリー!良いとこ見せなさいよ!」


 クレイアが叫ぶ。自分の一言が引き金になったというのに呑気なやつだとアシュリーは思う。


「よろしく。楽しくやろう」

「どうも」


 アシュリーは大剣、ファナンは刀。

 静と動。

 力と素早さ。


 異なる特徴を持つふたりの戦いは、やはりファナンの仕掛けから始まった。

 抜刀の構えからの居合斬りで一気に駆け抜ける。アシュリーが大剣で受けると、ビリビリと手に振動が伝わる。圧倒的な速度の攻撃であるため、その威力は凄まじい。アシュリー以外の人間が受け止めたら武器を弾かれてしまっているか、武器ごとまとめてふっ飛ばされているだろう。

 再度【瞬天】が返ってくるかと思いきや、そのまま反転して刀による連撃が襲いかかる。だがアシュリーも、【身体強化】によるパワーアップにより大剣を軽々と振り回すことが出来る。激しい刃の攻勢を大剣の細かい動きで受け切る。

 ファナンがバックステップで距離を取り、再度【瞬天】で攻撃──と見せかけてアシュリーの手前でストップ。緩急のついた攻撃が、よりアシュリーに肉薄する。


「……っマズイ!」


 今度はアシュリーが下がって離脱。

 ファナンは追いかけずに一旦間を取り直す。


「あの大剣でよくさばけるな」

「あれが【身体強化】の真骨頂だ。重い武器を振り回すことが出来るから対応できる」


 生徒とステファン先生の会話が耳に入る。


「さて、困ったな」


 ファナンは何を考えているのか──口数が少なく表情も動かないので読めない。アシュリーは勢いで押されている気がしているが、ファナンとしても攻め手に欠いているので内心困っている。


 次に動いたのはアシュリーだ。高い身体能力を活かして飛び込むと、巨大な大剣が暴力的な威圧感を持って襲いかかる。

 ファナンは【瞬天】で回避。大剣を片手で振り回して追撃するが、それも回避。【瞬天】も【特級身体強化】も攻防一体だ。それ故に互いに一手足りない。

 そこでアシュリーが土の魔法を発動。ふたりの間に土の壁を作る──といっても、アシュリーは魔法が苦手なので、腰までの高さしかない。だが、この場合はそれで良かった。視界は通るが、【瞬天】は直線的な動きなのでアシュリーに攻撃するためには土壁を迂回しないといけない。

 ファナンは普通に飛んで土壁の上に乗る。そこへタイミングよくアシュリーの大剣が襲いかかるが、やはり避けられる。

 逃げた先はアシュリーの真上。


(どこだ?)


 ファナンが左右にいないので一瞬見失う。真上から気配を感じて見上げると、斬りかかる体勢を整えたファナンが目に入る。

 慌てて大剣を構えて防御の姿勢に入るが、そこでファナンの姿が消える。

 剣に衝撃がこないことに気が付き、ファナンの行方を追うが見当たらない。視界に映らないということは、つまり後ろにいるということだ。

 しかし、この一瞬の間が致命的となる。

 【瞬天】で背後にまわっていたファナンは、右回りに回転、遠心力の加わった強烈な一撃がアシュリーの左肩に入る。

 が、ファナンの持っていた刀が根本からぽっきりと折れてしまった。


「……?」


 困った顔で刀を見るファナン。

 【身体強化】で能力が上がるということは、もちろん防御力も上がる。刃を落とした刀が、極限まで高まった防御力の前に屈した形になる。


「これは、どっちの勝ちなんだ?」


 引き分けとも言えるし、一撃を入れたということでファナンの勝ちとも言えるし、武器破壊をしたということでアシュリーの勝ちとも言える。

 これは判定だろうなと、生徒の視線がステファン先生に集まる。


「うーん。しっかりと一撃入っているし、ファナンの勝ちだろうな」


 大きな歓声が上がる。

 こうして第1回1年1組最強決定戦はファナンの優勝で幕を下ろした。

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