第18話 恋の暴徒は魔性を秘めていた2
かくして、今度は
「神木巫女」についての調査を開始した。
すると、不思議な変化が起こり始めた。
それを知ったのは神木さんを調べ始めて
数日が経った日のこと、
依頼者の立石さんの訪問だった。
「最近、俺の机の中にこんなものが
入れられるようになったんですが……」
そう言って、机の上に置かれたのは、
市販品のお菓子だった。
女の子らしく可愛いリボンがかけられた
ナイロンの包みの中には、
小さなメモのようなものが入れられていた。
それに気づいた佐渡先輩は、
立石さんに断りを入れて、その包みを解く。
「立石くん、これ、開けてもいいか?」
「は、はい」
中からメモを取り出して、読んでみた。
『立石くんへ
よかったら、食べてください。』
とだけ書かれていた。
簡素だが、その丸みを帯びた文字は
女の子らしさを感じさせるものだった。
「このメモ預かってもいいか?」
明先輩はぶっきらぼうだが、
決して悪意があるわけじゃない。
ただ不器用なだけだ。
それを分かってくれたのか、
立石さんも素直に頷いた。
「はい、どうぞ」
「それと、もらったものは食べたり、
捨てたりせずに、保管しておいてほしい。
またこんなことがあったら、すぐに言ってくれ」
なんとなく、佐渡先輩の行動が
読めてきたような気がする。
多分、メモは筆跡を調べるのに用いて、
他は証拠と安全のためだろう。
佐渡先輩は分かり易くはないが、優しい。
依頼だからなのか、
那月先輩の傍にいて身についたものなのかは判断できない。
でも、その優しさに変わりはないね。
「分かりました」
それから立石さんは毎日のように
風紀部を訪れるようになった。
「今日は新発売のチョコ菓子でした」
「今日は駅前のシュークリームでした」
「今日はスポーツドリンクでした」
依然として、
その現場を抑えることができていなかった。
しかし、この数日の間にも収穫はあったのだ。
速水先輩が女子を誑かしたのか何なのか、
どうにかこうにかして、
神木さんが書いた日誌のコピーを得られた。
それと今までのメモを照らし合わせてみると、
それは一目瞭然で、
肉眼でも確認できるほどのものだった。
もちろんこれはあくまで、
ストーカーと差し入れの人物が
同一人物であるという前提に基づいての話だ。
さらに、立石さんの心境に
新たな変化も生じていた。
「俺、その人のこと、
好きになってしまったかもしれません……」
顔を俯かせてそう打ち明けてくれたのは
依頼を受けてから、一週間弱経った日だった。
言うまでもなく僕は絶句した。
その様子に立石さんは肩を落として、
嘆くように言った。
「おかしいですよね、こんなの。
顔も知らない誰かのことを好きになるなんて。
でも、こんなにも自分のことを見てくれて、
心配してくれる人はいなかったんです。
母親も、弟に構いっぱなしでしたから、
すごく、嬉しくて。
だから、その人に会いたい、です」
最後の一言を受けて、凌先輩が動き出した。
「誰か、知りたい?」
魔法のごとく囁かれたその言葉に
立石さんは飛びついて、懇願する。
「知っているんですか!?
お願いします、教えてください!!」
「分かった。
立石くんをストーキングしていたのは、
君と同じクラスの神木巫女だよ」
立石さんはひどく驚いたようで、呆然としていた。
「そう、でしたか。
神木さんが……俺のことを」
感慨深そうに、
何度もそう繰り返した後、納得するように頷いていた。
そこに、凌先輩はまた確かめるように言葉して。
「それでも、
立石くんはその子に会って確かめたいの?」
今度こそ、立石さんは迷わずに即答する。
「はい。俺はこの気持ちを確かめて、
そして、彼女に告白したいです」
そうして僕らは、
二人を対面させるように工作したのだった。
そして、ついにその日がやってきた。
彼女をストーカーとして
確かめるために呼び出した方法はこれだ。
『いつも差し入れをくれて、ありがとう。
一度会って話したいことがあります。
二十四日の金曜日の放課後、
食堂裏に来てください。
立石良平より』
この手紙を自分の机の中に入れてもらったのだ。
文章は僕が考えて、
文字は立石さんに書いてもらった。
そうしないと意味がない。
彼の文字でないと、神木さん、
いやストーカーとしての彼女を
呼び出すことはできないだろうから。
それは昨日の放課後のこと、
そして金曜日の放課後、今に至るというわけだった。
余計なお世話になるかとは思ったが、
部員全員で話し合った結果、
僕らも周辺で待機することにした。
立石さん本人は告白をする気でも、
相手はそれを知るはずがない。
もし、ストーカー行為を
忠告するようなものだと考えていれば、
立石さんの身が危ない。
もう一つは、彼らの恋が
うまく成就するところを見届けたいのだ。
風紀部は勘違いされがちだが、
他人の不幸を喜んだり、
願うような人の集まりではない。
本当は誰よりも幸せを望み、
優しいからこそ、
心に深い傷を負ってしまったのだ。
他人の傲慢に振り回されたからこそ、
これ以上自分たちのような被害者を出さないように、
こんな活動を続けているのかもしれない。
と、僕はそんな途方もないことを
考えてしまっているうちに、
とうとう神木さんが姿を現した。
よし、しっかり観察しなくては。
しかし、ある程度の距離があるため、
ここからでは詳しい会話内容は聞き取れなさそうだ。
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