自転車の漕ぐスピードは人生
自分は早く家に帰りたかったので自転車をめちゃくちゃ漕いで家を目指していた。だが、いくら自転車を漕いでも全然 前に進まないのだ。
なんなら普通に横で歩いている人よりも遅いのだ。
「クソッ! どうしてだ…!?」
いくら頑張って一生懸命漕いでも、ちっとも前に進まない。本当にちょっとずつしか前に進まないのだ。
「プップー!!」
道路でそんなことをやっていたものだから、後ろから車がクラクションを鳴らしてきた。
「おいお前! さっさと前に行けよノロマァ!」
「ご、ごめんなさーい!」
車に乗っている人に怒鳴られてしまったのだった。
「そんなことは言われなくても分かっているんだよ」って思いながらも自転車を漕ぎ続ける。
だが、自転車はちっとも前には進んでくれない。すると隣に3人組の小学生の子供がいた。
ランドセルを背負っているから多分小学生に違いない。そして、その小学生達にも当たり前のように自分は追い抜かれてしまった。
自転車を漕いでいる自分よりも歩きの小学生の方が早いのだ。何が起きているのか訳が分からない という気持ちだった。
「クソッ! ちんたらしてんじゃねぇ! もう追い抜くからな!」
後ろの感じ悪い運転手が乗った車も自分を追い抜いていった。気が付くと自分はみんなから置いていかれてしまったのだった。
自分は誰よりも必死に自転車を漕いでいるのにちょっとずつしか進まない。こんなに必死にペダルを漕いでいるのに、みんなは当たり前のように自分を追い抜いていく。
「どうなってんだ!?」
次はヨボヨボの老人が隣を歩いていた。 その老人は歩くスピードが遅いにも関わらず、自分を普通に追い抜いていった。
ここで自分はあることに気付いた。まるでこれは人生みたいだということに。自分に出来ないことをみんなは当たり前のように出来てしまう。
自分はいくら時間を使っても出来ないのに、みんなは短時間で当たり前のように出来て簡単に自分を追い抜いていってしまう。
それに気付いた瞬間にとてつもない 恐怖感が襲ってきた。
「自分は何をやってもダメな人間なんだ…」
果たしてこのまま自転車漕いで家に帰ることが出来るのだろうか? もしかしたら一生家に辿り着くこともなく、このまま道でのたれ死んでしまうのかもしれないんじゃないか、そう思った。
「ああ、そういえば自分は昔から何をやってもダメな人間だったなぁ…」と思い出す。
みんなが出来る、その普通のことが当たり前のように出来ないのだ。 そしていつしか疎外感を感じるようになっていた。
この自転車の進むスピードというのは自分の人生そのものだ。悲しいことに小さな子供にすら追い抜かれてしまうのだ。
今は赤ちゃんの子もいつしか自分を追い抜いていってしまう。
「ぷっぷー! マンマ、あんよ!」
今、隣で三輪車を漕いでいる小さい子供は親の力を借りて自分を追い抜いていく。そのうち小さな子供も自力で自分を追い抜いていくことになるだろう。
「じゃあ自分には何が出来るのだろうか?」
そんなことを考えてみるが、特に何も思いつかない。とにかく家に帰りたいので必死に家を目指していく。
もうずいぶん空も暗くなってきた。本当に自分は家に帰れるのだろうか?
「プップー!」
また後ろの車のクラクションを鳴らされた。また怖い人かと思ったら、その車には見覚えがあった。
これは家族の車だったのだ。家族が ことを心配したのか、迎えに来てくれた。
「ずいぶん遅いじゃないか、帰るぞ」
自分は自転車を降りて、自転車を車に積んだ。自分は車の後部座席に乗って家を目指して走っていく。
自分の自転車よりもものすごく速く感じた。
「あーそうか、最初から自分一人で頑張る必要はなかったんだなぁ…」
自分は三輪車の子供と同じだ。自分だけの力で前に進めないのなら、誰かに手伝ってもらえば良かったのだ。
成長のスピードは人それぞれで、ゆっくりじっくりと自立出来るようになれば良いのだ。
そんなことに気が付いた日だったり
「疲れたよー」
そして、自分は無事に家と辿り着いたのだった。眠くなってそのまま眠ってしまった。
「行ってきまーす」
自分は朝になって、学校目指して自転車を漕ぐ。今日は当たり前のように普通のスピードで自転車を漕げるようになっていた。
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