第43話 銀幕の裏側で⑮<SIDE: メドウ>

「すみません! もっと冷静になって見るべきでした」


 メルが手を添えながら頭を下げた。自らの失態を恥じる後輩に、メドウは朗らかに笑いかける。


「犠牲者が出ていなくて安心したよ。しかし本当によく似ている人形だ。さっきまで一緒にいた僕でさえドキッとするぐらいなんだから」


 手に持った人形を見回してみる。体のサイズから模様、顔つき、シルエットの何から何に至るまで直属の後輩のシエルとピッタリ一致している。その人形が、保管スペースとしても使われず、かつてレストランの調理場として使用される計画のあった、この余り部屋に落ちていたのだ。


「まぁ、なんとやらは盲目というしな。余計に見間違うだろ」


 カガリも少々呆れ顔でいるが、同時に口元が綻んでもいる。同僚に犠牲が出なかったことにやはり安堵しているようだ。


「シエルくんにはこれでお願いします」


 メルは申し訳なさそうに口の前で人差し指を立てた。


「それで、結局、怪我人は彼らだけか」


 メドウは力なく倒れている者の方に向き直る。ジャッカルとリカオンの姿をした強盗が横たわっていて、救護処置を受けているところだった。


 奇妙なのは、この爆発事故に巻き込まれた彼らが奇跡的に一命を取り留めたまではいいものの、その後何者かの手で軽い応急処置を施されている痕跡があったことだ。火傷により炎症を起こした患部には水に濡らした布で覆われていた。聴取記録によると、先ほどメインホールで捕らえた仲間達の仕業でもないらしい。


 ーーでは、一体誰が。


 メドウがそこまで考えていると、別の警備員がメドウを呼びかけた。別室にて強盗の1人と、この保管庫で働いている委員が見つかったのだという。


 救護班に補助を受けながら現れた委員はコアラの姿をしていた。今の今まで掃除用具室に別の気絶した強盗と2人きりで立てこもっていたのだという彼は、足を負傷していて、おまけにこの部屋の様子を聞いて大変にショックを受けている様子だった。その様子はなんだか自分の持ち家が火事にでもあったような大袈裟さを含んでいたが、メドウはそれよりも事件当時の状況を詳しく聞くことにした。


「最初は俺と一緒に子供2人と、もう1人の委員、それから……客と言っていいかわからんが、変な奴が1人いたんだ。けど、そいつらは隙を見て出てっちまった」


「その人達はこの中に?」


 メルがコアラの委員にモニターを見せた。先ほどメインホールにいた人質がリストアップされている。


「いや、いないな。てことは、あんたらが来る前に逃げ果せたってことだ。子供は熊と人間、委員はイタチ、あと変なのはオオカミのナリしてたっけな」


「人間? イタチ? オオカミ?」


 メドウは彼の口から出た言葉に奇妙な引っ掛かりを覚えた。


「もしや、人間の子の髪は金色でしたか? それとイタチはこんな格好?」


「うおっ……なんだ人形か。そうそうまさにそんな姿だよ。人間も金髪だったな。もしやはこっちの台詞でもあるな。あんたの知り合いか?」


 メドウはメル、カガリを引き連れて裏口の方へ急いだ。さっきの委員が言うには、一旦はダストシュートから出て、1階の駐車場口から出ようとしたとのことだった。道筋を辿って、駐車場口を出ると警備員が屯していた。


 その中に、パンダの少女が見当たった。子供とイタチの行方を問いただすと、バイジンという名の少女はこう言った。


「その子、ヴァーユって言うんだけど、さっき爆走していったよ。変なお姉さんと一緒に」

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