第二章 不思議の森で
第8話 レアもの
ニンゲンの女がいた。
ある日の昼、いつも通りに値打ち物がないか、森の中を物色していた時のことだ。
ーーここはもう一掃されちまってるのか?
どうやら自らの勘は虚しく、そのエリアにはもう使えそうな物が落ちていないようだった。どこを見ても鬱陶しいくらいに草が生い茂っているばかりで、そこを踏み締めるたび、土と混じり合った苦い匂いが鼻をつく。
落ちていたとしても、ほとんどが塵芥と形容するにふさわしい小さな破片や切れ端だった。どうやっても価値がつきそうにない。あの蝶の気配もまるでない。
ーーハズレだな。
そう思い、踵を返そうとした時のことだ。目の端に、矢印が飛び込んできた。
その矢印はどうやら石を置いて作られていた。その先はある一方向を指したままで、音を立てず色も目立たないとあって、完全に周囲と同化していた。背景に葉や枝を縫って辛うじて届いた日の光を浴びていなければ、いっこうに気づけなかったかもしれない。
それを追った先に、かのニンゲンの女がいたのだ。女はでかいバッグを背負っていて、矢印が指していた方向をまっすぐ進み続けていた。
気配を殺し、様子を伺った。
ーーせっかく来たのに収穫なしってのは気にくわねぇ。
女に近付くため、潜めていた息を解こうとしたその時。思わぬ方向から先手を取られてしまった。
見れば胴の長い小さな猫みたいな獣、すなわちイタチが、女に猛スピードで接近していたのだ。
何やら二人は話をした後、一緒に歩き始めた。気づかれぬよう細心の注意を払いながらその後を追った。
歩き続けると、落とし物がいくつか目につくようになった。だがもっとびっくりしたのは、辿り着いた先に大量の蝶が舞っていたことだ。今までにみたことの無い数が、そこに集中していた。
これは相当の値打ちものがあるに違いない。そう思った。
鉄の塊のてっぺんから女が引きずり出したのもこれまたニンゲンの子供だった。その子供が持っている物がどうやらこの異変の中心だったらしい。
好機到来。大きな獲物を見つけた興奮で心臓が活発にバウンドし、目の端が熱くなっていった。
だが、小さい獣が発したとある言葉で即座に心臓は大人しく縮み、目は窄む。隙を窺うため、耳をすましていた時、そのイタチは2人を外へ連れていくというようなことを言ったのだ。
ーー間違いない。こいつは”委員会”のヤツだ。あいつらに直接因縁をつけるようなことをすりゃ、マズいかもしれねぇ。もしかして、さっきギリのところで先手を取られたのも、俺の存在に勘付いてのことか?
狙いのレアものが目の前にあるというのに、無遠慮に手を出せないもどかしさを抱えて、戻ることにした。一旦、相棒に相談してみるべきだと思った。
ーーあいつらの顔と匂いと声は、しっかり覚えた。あのガキの持っている物、どうにかして奪い取ってやる。
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