第34話 少年編33

「あんなぁ、あんたには黙ってたんやけど佐藤の薫ちゃん、前から病気やったんよ。そんで今朝方お母さんから電話がかかって来て…。」


「亡くなったって…。」


「ごめんね、黙ってて。」


「薫ちゃんから、あんたには言わないでって言われてたんよ。」


あまりにも突然の事で隆司には何を言われているのかわからなかった。


ただ、自分だけが知らない事象を突きつけられて、一番に信用している人達に裏切られたようで悔しくて涙がこぼれた。


春子もそんな我が子を見ながら、いたたまれなくなり泣いた。


泣きながら春子は話の続きを語りはじめた。


「薫ちゃんねぇ、病気で心も体もボロボロになっていくとこ、あんたに見せたくなかったんやって。」


「だから、あんたにはどうしても言わんといてって、泣きながらお母さんにお願いしたらしいわ。」


「それに、絶対に元気になってあんたとまた逢えることを信じて、最後まであきらめなかったってよ。」


「そんな薫ちゃんの気持ち、わかってあげや。」


「でも、でも、何で僕だけ…。」


隆司は薫の気持ちも、誰の気持ちもわからなかった。


今の今まで自分だけが病気の事を知らず、ある日突然、身近で大切な人がこの世からいなくなった事を告げられた。


突然の悲報に動揺し行き場を失った心に、他人の気持ちを思いやれるほどの余裕は無かった。


そして幼い隆司にとって、身近で大切な人の死はあまりにも残酷で受け入れがたいものだった。


そんな我が子の気持ちを察してか、春子はしばらく何も言わず見守ることにした。


隆司はもう二度と逢うことのできない現実を受け入れる事ができないでいた。


薫との今までのいろんな出来事が走馬灯のように頭の中を駆け巡り、その一つ一つが永久に消えて行くのをただ眺めているだけだった。


まるで最初から存在していなかった幻想の世界のように。




「あっ、それからこれ。辛いやろうけど、薫ちゃんからあんたに手紙預かってるねん。」


春子の言葉が悪夢の様な幻想から隆司を引き戻す。

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