第22話 少年編21

2人の間に気まずい沈黙の時間が流れる。


隆司は何か言葉を発しようとするが、飲み込んでしまい、声にならない。


薫は相変わらず頬杖をついて窓の外を眺めている。


渾身の力をふり絞り、隆司が口をパクパクさせて何か発しようと決意した瞬間、


「うちなぁ、隆ちゃんの事、前から好きやってん。」


薫の精一杯の告白の声に、隆司の渾身の声はかき消される。


窓の外を眺めていた薫は、少女漫画に出てくる様な丸くて大きな瞳で、真っ直ぐ隆司の方を見つめながら、幼なじみという関係に終止符をうつ言葉を口にする。


その大きな瞳はかすかにうるんでいた。


隆司は身近な存在の積極的な態度と真剣な告白にどう答えたらいいのかわからず、そのまま、「わかれへん。」と答えようとしていた。


その言葉が薫の告白とかぶって打ち消されてしまい、ホッとする。


精一杯の勇気を振り絞って発した、一途な乙女心に、「わかれへん。」はありえない。


経験のない隆司にだってわかる。


薫の事は1番よくわかっているつもりだ。


負けず嫌いで気が強いわりには寂しがりやで泣きむし。


普段は女王様気取りだが、ベットの上は可愛いぬいぐるみだらけで、それがないと1人で寝れない。


そんな薫が真剣に答えを求めている。


幼い隆司にも男としての勇気ぐらい多少はある。


その勇気を振り絞る時は今しかない。


隆司は深呼吸をして、


せいので、


「僕もっ!」


最悪だ!


声がうわずって詰まってしまう。


もう一度、


「僕もかおちゃんの事前から好きやった。」


言えた!


言えたけど、今度はうわずらない様にと、聞き取れない様なか細い声になってしまう。


隆司の顔は恥ずかしさと不甲斐なさで耳まで真っ赤に染まる。


そんな隆司に薫は、


「ほんとに!ありがとう。」


「隆ちゃんでもな、うち…。引っ越すかもしれへん。」


と震えた声で言って、おさえきれなくなった感情があふれだした。


隆司は今まで見たことのない薫にどう接していいのかわからず、


「大丈夫やで、かおちゃんのとこいっぱい遊びに行くし。」


と脳天気な言葉をかけてしまう。


薫がどこかに行ってしまう理由は、そんな簡単な事ではなかった。


もっと大人の事情がからんだ、子供には理解しがたいものだった。


それを知る由もない隆司は、ちょっと隣町まで自転車で会いに行くような感覚でいた。


もちろん、当事者の薫はその事情を全て知っていた。


今まさに、下の階で母親達が話している事がその事情とやらだ。

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