狂った世界を元に戻すための旅に出る
矢田 レイン
1-1 運命の出会い
あの日、あの時間にアイツと出会ったことで俺の人生は大きく変わってしまった。
あの美しい女性と出会ったところから物語が始まる・・・平穏な日常が終わり、死と隣り合わせの危険な日常へと変化してしまうところから始まっていく。
俺の名前は鏡 新(かがみ あらた)。
正直自分でも珍しい名前だと思う、俺と同じ名前の持ち主は聞いたことがない。
頭の悪い高校に通ってる高校二年生でもある。もちろん帰宅部だ、誰かと足並みを揃えて行動なんてめんどくさい。
そんな俺に友達なんているわけもなく、常に1人・・・すなわちオンリーウルフということだ。
別に友達がいらないわけじゃない。ただ自分に付き合える人間がいないだけだ。
いつものように学校帰りに街をぶらぶらとして夜中まで歩く。
親はいない。炊事洗濯全て自分でこなさなければならないが、帰りが遅くなろうとも誰も文句を言う奴はいないから気楽なものだ。
街から家への帰り道、いつものように公園の側を歩いていく。
その時・・・不意に立ち止まり空を見上げると、いつもよりも月の明かりが強く光ってることに気付く。
「今日は満月か・・・」
つぶやき、そのつぶやきは風に乗って消えていった。
立ち止まって見上げていると、風に乗って何かの匂いが流れてきた。
「なんだこの匂い、鉄の匂い?」
この匂いの元を探るため、俺は周囲を見渡す・・・すると匂いの元は直ぐに見つけることができた。
公園の中央に美しい女性が血まみれで倒れていたからだ。遠目で見ても分かる位に血を流し、放っておけば長くは生き残らないだろう。
赤く染まった鎧、傍らには身の丈もありそうな大鎌・・・・
正直これを見ただけで分かった、これにかかわってはいけないと・・・俺の勘がそう告げていた。
そう思い、見捨てて帰ろうとした時・・・女性と目が合ってしまった。弱弱しく光る眼、何かを伝えようと動かす唇・・・だが声は出ない。
時間にしてはほんの数舜だっただろう、直ぐに女性は気を失ってしまった。
俺に何を伝えようとしていたのか、助けてくれと頼もうとしたのか、それはわからない・・・・だがこうして相手と少しでも関わった以上、縁が出来た。出来てしまったのだ。
「人との縁は大切にしろよ。どんな時にどんな縁が舞い降りてくるかはわからねぇ、だがな新、不意に来る縁ってのは自分にとって特別な物になる事もある。それだけは覚えてろよ」
突然頭に誰かの声が響いた。この声の主が誰だかは思い出せないが、この言葉だけはやけに重くのしかかった。小さいころに誰かが言っていた1つのセリフ・・・
「不意に来る縁か・・・・仕方ない、とりあえず連れて帰って応急処置だけはやるか」
倒れている女性を背負い、大鎌をどうにか持って帰ることに成功した。
両親が金持ちだったらしく、1人で暮らすには持て余す程度の家に住んでいるから、空いてる部屋はたくさんある。
そのうちの1つに寝かし、血が出てる部分を消毒し包帯を巻きつける。
「これでいいだろう。俺も寝よう」
次の日の朝、起きて直ぐに女性がどうなってるか確認しに行くが、まだ起きていないようだ。
「・・・寝てるなら放っておいて学校にいくか」
すこしばかし見知らぬ他人を家に置いておくのは不安だったが、気にせずにいつも通りつまらない学校へ登校することにした。
いつものようにつまらない教室、皆が皆挨拶を交わしたりしているが俺に話しかける物好きは誰一人としていない。
イスに座り寝ることに・・・
「ホントに見たんだって!屋根の上を大きな影が走っていくのをさ!」
「夜だったんなら見間違いじゃないの?そんなアニメみたいなこと起こらないって」
「もしホントだったとしても大きなネコとかそんなんでしょ、けど大きなネコだったら見てみたいわね~」
クラスの誰かが何か話している。
(まさかあの女だったりしないよな・・・)
可能性としては有り得る話だ。
だが、いちいちあの輪の中に加わって話合いに参加する気は全くないのだ。
(昨日は疲れたんだ、寝よう)
そして新は深い眠りの底へと落ちていった・・・
目を覚ましたのは丁度6時間目が終わり授業が全て終わった時刻。後はホームルームで話を聞くだけだった。
担任の話も適当に聞き流し、帰れると思った頃。
「あ~鏡はこの後職員室の私の所まで来るように。では解散」
めんどくせぇ・・だがこれを無視するともっとめんどくさい事になるから行くしかなかった。
「何ですか?」
「お前今日も居眠りしてたそうじゃないか、しかも全教科」
やはりお小言だ。まぁ学校に来て一日ずっと寝てたら小言を言われるのも仕方ないだろう、普通の生徒ならな。
「そうですね。ですが俺は内申は全て捨ててるんで、筆記試験は全て満点ですし、運動記録もこの高校の歴代1位を取ってるじゃないですか。それにもし起こされて問題を答えさせられても、全て答えてますよ?」
「そうなんだがな、起きて授業を聞くふりでもいいからできるように努力してくれ」
「善処します・・・それでは失礼します」
職員室を後にした。
そう、俺が他の奴らに嫌われる理由の一つがこれだろう。
どんなテストでも満点、どんな運動もトップ、これで普段は授業をまともに聞かず寝てるだけだからな。
それよりあの女性の事が気がかりだ、早く帰ろう。
足早に家へと戻る。
帰って部屋をのぞいてみたが、未だ起きた気配はなかった。
余程疲れていたのか、死の淵を彷徨っているのか・・・いやそれはないか、寝顔がそこまで苦しそうではないからな。
パパっと家事を済ませ、飯を食べる。
いつもなら外に出てる時間だが、今日はそうもいくまい。
晩御飯を食べていると、扉が少しだけ開いていることに気が付いた。
きっちり閉めていなかったか?と思いつつ、扉を閉めにいくと・・・隙間からこちらを伺うような目とばっちり合ってしまった。
「なっ!?」
「・・・・・」
ぐ~~~~~~・・・・・・
新の物ではない可愛らしい音がその場に響き渡る。
「ふぅ、腹減って起きたのか。入ってこいよ、あんたの分の晩御飯もしっかりと用意してあるから」
「・・・・ありがとう」
扉を開けて入ってきたのは顔を真っ赤にした昨日倒れていた女性だ。
腹の音が鳴り恥ずかしいのか、顔が真っ赤に染まっていた。
「そこに座っていてくれ、用意するから」
テーブルに着かせ、俺は晩御飯の用意をして持っていく。
「ほら、ご飯と鶏の唐揚げとサラダ、それとみそ汁だ。箸は使えるよな?」
「とても美味しそうだ、いただきます」
聞いていなかったようだが、意外と礼儀正しいし箸もしっかりと使えている。
箸で唐揚げを掴んで食べる。
「~~~っ美味しぃ!!噛めば肉汁が溢れ、パサパサ感もなくジューシーだ!」
凄い勢いで唐揚げにご飯が消えていく・・・間にサラダも食べているところを見るに好き嫌いはなさそうだった。
「あ・・・もうない・・・・」
「く、くく・・ははははは!」
しゅ~ん・・・って効果音が聞こえそうな位の落ち込みっぷりで思わず笑ってしまった。笑ったからか思い切り睨まれてしまう。
「悪い悪い、まだあるから持ってくるよ」
残った唐揚げとご飯をもう一度出してやると、嬉しそうに、しかもおいしそうに食べつくしていった。
(明日まで持つかと思ったが全部なくなるな。別に構わないけどさ)
晩御飯を全て平らげ、食後のお茶でまったりとした時間が流れ出す。
「お腹いっぱいで美味しかったぁ~・・・・」
本当に幸せそうな顔しやがる。
だがずっとこのほのぼのとした空気に甘えているわけにもいかないよな。
「あの場所で・・・倒れていたのはなんでだ?」
単刀直入に聞き出す、こういう時回り道をするよりはこのほうがいいだろう。
目の前の女性は言うか言わないか少しの間黙っていたが・・・やがてその口を開いていく。
「私の名前はカノン、先日は危ない所を助けていただき感謝する。だが・・・これ以上の事を教えてしまうと貴方を巻き込んでしまう・・・・」
黙っていたのはどこまで教えていいかを考えていたのか。
「そうかい・・・俺の名前は鏡 新だ。そう考えてるなら俺も無理には聞かんよ」
「ありがとう新。この場所に長居するのも不味いんだ・・!そんな、もう来たのか!?」
「どうした?何が来た?」
急にカノンがうろたえながら意味のわからないことを口走りだした。
俺の事は全く目に入っていない様子で家の外へと走っていってしまった。
新はカノン走り去った後を追わずに、窓から外を見る・・・
「なんだあれは?」
外には宙に浮かぶ1つのなにかがあり、よく目を凝らしてみるとそれが人の形をしていることがわかった。
「こんな街中でどういうつもりだ!」
「どうもこうもない、貴様がこんな街中に逃げなければ済んだことだろう?大人しくアレを渡せば見逃してやるぞ」
外では宙に浮かんでるカノンと、宙に浮かんでる誰かがしゃべっているようだ。
「貴様らに渡すわけにはいかん!」
「そういうと思っていたぞ・・・故に先手は取らせてもらう!」
先に動いたのは相手の方だった。
自らの左右にコウモリのような生き物を召喚し、カノンに襲い掛からせた。
カノンの方を見ると、カノンの姿が変わってることに気付いた。
さっきご飯を食べてる時は普通の衣服だったのが、今は俺が拾った時に身に着けていた鎧に変わっていた。
違うのは、血で赤く染まっていた鎧は汚れが落ち、綺麗な白銀の鎧になり、カノンが手に持つのは剣だった。
ならあの大鎌は・・・?
「はあぁぁぁぁっ!!」
カノンが剣を一振りするたびに、コウモリもどきが斬れて霧と消えていく・・・
(これはなんだ?漫画やアニメみたいな光景が目の前に広がっているぞ)
次々とカノンに襲い掛かるコウモリとそれを向かい打つカノン。
途切れることがないコウモリを相手を前に、次第にスタミナが落ち剣を振るう力が弱まってくる。
「はぁ、はぁ・・・あいつは?」
「息が上がっているぞ?」
「後ろ!?・・ぐぅあぁぁ!」
後ろに回り込まれた男の一撃で、窓をぶち破り俺の目の前まで吹き飛ばされてきた。
「大丈夫かカノン!」
「がはっ・・に・・・逃げろ新・・・・」
血を吐くカノン、どうやら内臓をやられたようだ。
「逃げろったってどこに逃げれば」
「ほぉ、なにやら妙な気配がすると思えば、この結界の中でもまともに動くことのできる人間がこんなところにいるとはな」
気付けば窓の直ぐそこに、男が浮いていた。
「お前ら一体なんなんだよ!空を浮いたり、生き物を出したり、何がしたいんんだよ!」
「平和ボケしている人間にはわからない事だ。それより、その後ろに庇ってる女を差し出しせ、そうするならお前は助けてやる」
俺に黒い剣を向けながら話すこの男、言外に断れば俺を殺すと言っているようなものだ。
生き残れる道があるならそれにかけるべきなのかもしれない・・・こいつらの争いに巻き込まれ、命を散らすのは馬鹿らしいことだと思う。
「この人はどうなる?」
「そいつの隠し持ってる物を頂いてから殺す、どうした?貴様に選択肢はないだろう。生き残りたければそこをどけ」
「あ・・あらた・・・どいて・・・・」
血を吐きながらカノンにまでもどけと言われる。
確かに、ここでどけば俺の命は助かるかもしれない・・・だが!
「それで生き残ったとしたら俺は・・・俺は前には進めなくなる!」
「命を捨て、自らの誇りを守るか。命あっての物種だろうに」
「それでも俺は後悔しない道を選ぶ!例えそれで死んだとしてもだ!!」
男を真正面から睨み続ける。
「勇敢だな。せめて苦しまずに殺してやろう」
男の振るった剣が俺の首筋へと向かってくる。
「あらた・・!!」
周りがやけにスローに感じるな、死ぬ間際の何とかってやつか・・・ここで俺が死ぬことに意味はないだろう、全て自己満足だ。このままじゃどのみちカノンも直ぐに殺されてしまうしな。
そして剣がもう俺の首を飛ばすところまで来ていた。
これで終わりか・・・
ギイィィィィィィン!!
「なんだと!?」
首を斬ろうとした瞬間に剣が弾かれ、俺の首を刎ねることは無かった。
「新は、殺させない・・!」
「カノン!?」
カノンがギリギリのところで防いでくれたんだ!
そのまま倒れそうになるところをなんとか支える。
「死にぞこないが・・・少し防いだところで死ぬのが少し遅くなるだけだぞ」
「くッ・・・」
カノンはもう自分で立つことができないほど疲弊している。
俺は戦う能力がない・・・なんて無力なんだ。
(ん?ポケットが熱い・・・なんだこれは、指輪?)
妙に熱を持っていたポケットから俺は指輪を取り出す。
「!?それを渡せぇ!!」
指輪に気が付いた男が俺にめがけて突っ込んできた。
「うわ!光りだしたぞ!」
「死ねぇ小僧!!」
「させない!」
指輪が急に光だし、次第に光が収まっていく・・・
光が収まった時、俺の手には昨日のあの大鎌が握られており、服装もいつもの私服から黒衣の中二病感のある服装に変わっていた。
「なんだこれ?」
「ちっ、その小僧に適性があったとはな・・・誤算だった」
「新・・・」
男が手に持っていた黒剣を無数のコウモリに変えて飛ばしてくる。
「オラァ!」
俺の持つ鎌の一振りで大半のコウモリが消し飛んだ。
「任務失敗・・・ここは一度撤退がベターか。じゃぁな小僧!次は殺す!」
男はその場から消え去り、街はいつもの雰囲気に戻る。
壊れた物は元通りになっていた。
「カノン!大丈夫か!?」
「何とか大丈夫・・それより、巻き込んですまない」
俺とカノンの服装も元に戻り、俺の指には厳つい指輪が1つ嵌まっていた。
「それはいいから、そんなことよりも治療が先だ」
「医者はいらない、治療は最低限でいい。寝てたら治るから・・・」
どう見ても寝て治るケガには見えないんだが、本人が医者はいらないと言っているのだから、応急処置だけやってベッドに寝かせておくことにした。
ケガが治り、目が覚めた時に色々と話してもらおう、もう俺も巻き込まれたわけだしな・・・・
だけど・・・今はそんなことよりも寝よう、眠すぎる。
俺は今日の学校を休み、一日寝ることにしたのだった。
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