第126話 『首都アブダンティア』

 第一印象を聞かれれば、にぎやかな場所と答えるだろう。

 アブダンティアへ降り立ったナミラは、感嘆のため息を漏らしながら思った。


「ようこそ、ナミラ・タキメノ様。ご案内致します」


 ホテルと呼ばれる宿屋に着いたナミラは、迎えてくれた男性のあとを歩いた。

 サニーはガオランとアーリを医者に見せると言い、ナミラを降ろして去っていった。首都の道は濃い灰色に舗装され、車と馬車がそれぞれの専用路を通っている。脇には通行人用通路もあり、車の道とは段差が設けられていた。


「お荷物は、馬車から受け取ってお部屋に運ばせていただきます。うしろをついてきたようですが、馬が驚いて遅れてしまったようです」


 玄関ホールの奥に設けられた箱に入ると、男が壁に埋められたボタンを押した。

 すると細かな振動と共に床が動き、ナミラたちを上へ運んだ。


「どうです? 驚いたでしょう。これはエレベーターというもので、高い建物にはみんな備えられているんですよ。今は滅んでしまった、バーサ帝国からの技術を改良して……」


 男は部屋に着くまで、王国にはないであろうものについて丁寧に教えてくれた。

 案内された部屋は一人で使うにはいささか広すぎるほどで、清潔感に溢れている。


「では、お荷物が届きましたらお持ちします。昼食のあとに使いの方が来られるようなので、それまでどうぞ、おくつろぎください」


 男と別れると、ナミラは窓の外を眺めた。

 セリア王国の王城の高さと変わらぬ、長方形の建物がいくつも並んでいる。眼下では多種多様な種族が、忙しくも平和に過ごしている様子が伺えた。


「……思っていた以上だ。建築物は、ドワーフ古代文明のそれに近い。あれは自動車か……動力は魔力だが、エネルギーへの変換システムがゴーレムのものと似ているな」


 解析眼で周囲を見つつ、軽くため息をついた。


「文明レベルはこの時代で群を抜いている。これでは、学びに来た子どもが連合に染まるのも頷けるな。首都の様子を見れば、他国も恩恵が欲しくなるだろう。だが」


 やたらと体の沈むソファーに腰掛け、ナミラは腕を組んだ。


「この地は元々、ゼニナ王国という小さな国だったはず。自然溢れる国で、過去にジョニーも訪れていた。だが、見る影もない」


 自身の手を見つめる。

 あらゆる種族の栄枯盛衰を知るナミラだからこそ、この発展に思うところがあった。


「気をつけないと、自らを滅ぼすぞダーカメ。少なくとも、月を目指したドワーフ最大の栄華は、欲望の末に終わったんだからな」


 そのとき、扉を叩く音がした。

 開くと王国からずっと御者を務めてくれた男がおり、お礼と挨拶を済ませた。荷物を受取り一時間ほどすると、今度は昼食が運ばれてきた。西側の伝統料理で、少し甘めな味付けだった。


「ナミラ様、使いの方が参られました。どうぞ、下に」


 玄関へ向かうと、サニーのものには及ばないが立派な車が停められていた。

 ナミラが近づくと、そばに立っていた若い男が声をかけてきた。

 

「やぁ、きみがナミラくんだね?」


 男の顔を見た瞬間、ナミラの動きが止まる。

 同時に、溢れそうになる涙を必死で堪えた。


「ど、どうしたんだい? あ! ここに来る前に揉めたって聞いたけど、どこか痛いのかい?」

「い、いえ。大丈夫、です。ちょっと目にゴミが」


 なんとか誤魔化すと、男はホッと胸を撫で下ろした。


「よかった。改めて、きみの案内係を任された者だ。レイミ・ベア、気軽にレイミと呼んでくれ」


 差し出された手を握り、二人は握手を交わした。


(あぁ……本当に大きくなったな)


 レイジの前世が、感激に震える。

 死した当時。まだ三歳だった弟が、成長した姿で立っているのだから。


「さぁ、乗って。この街を案内するよ」


 笑った顔が母親に似ている。

 ナミラは頷き、自分より大きな背中に続いた。


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