第14話 『父』

 ナミラたちが初めてガルゥと対峙した夜から、テーベ村には四年の月日が流れていた。

 

 気を失ったナミラと子どもたちは、森の動物たちに守られながら村へと戻った。大人たちは、熊やオオカミの背に乗った四人の姿に腰を抜かしながらも無事を喜び、無謀を叱った。


 ナミラはゲルトが手配した白魔法使いの治療によって、二日後に意識を取り戻した。

 そして、ナミラはダンたちに自らのことをすべて話した。


 ギフトや自分の気持ちも全部。


 三人はひどく驚いたが、それがナミラからの信頼の証だと理解し、むしろ絆を強める結果となった。


 ナミラたちはテーベ村きしだんにアニを加え、再び訪れるかもしれない脅威に対抗するため、本格的に活動を開始した。


 ナミラはただ獲得して終わっていた前世の経験や記憶を、現代で新たなものに昇華させようとした。手始めに、ポルンとターニャの技術を武術に変えられないかと考えた。

 これには、デルとアニの協力が非常に役立つことになる。

 二人はあのとき見た道化師の技と踊り子の舞に、それぞれ心を奪われていた。試行錯誤ののち、ガルゥ戦で見せた武術を完成させた。


 ダンもナミラの戦いに影響を受けていたが、前世の技ではなく斧という武器に惹かれていた。

 ナミラに斧術の前世がなかったため、村に立ち寄った冒険者に片っ端から声をかけ、とあるベテラン斧使いに弟子入りする。半ば家出のように修業に出たダンだったが、そこで師も驚くほどの才能を開花させた。

 二年で免許皆伝をもらい村へ帰還したのち、母からの拳骨と涙の抱擁で迎えられた。 


 彼らはそれぞれ成長を遂げ、力を身に着けた。

 そして今日、ついに四年前の雪辱を果たしたのだ。


「ふふん、俺たちも強くなったってことだな!」

「そのへんの冒険者にだって負けないさ!」

「こら、調子に乗らないの」

「ほらほら、村に戻るよ。さ、手袋して」


 四人はガルゥの死体を、草陰に隠しておいた荷車に積んだ。

 そしてダン以外が乗り込み、テーベ村に向けて出発した。途中、荷車を引くダンがわざと暴れ馬のように走ったため、少年少女の悲鳴と笑い声が、蝉の声と共に平和の訪れを告げることとなった。



「帰ってきたぞ!」


 村に戻ると、ガルゥに備えて武装していた大人たちが四人を囲んだ。


「無事だったか! ガルゥがまた来てるなんて言ったかと思ったら、四人で勝手に行きやがって……でも、よく戻ったな。冒険者も集まったから、見てきた情報を教え」


 アニの父であるガイが、棍棒を持ったまま娘を抱きしめ指示を出そうとした。

 しかし、荷台に積まれたガルゥを見て言葉を詰まらせた。


「お、お前たちがやったのか? これを?」

「やっつけちゃった!」

「完全勝利だぜ!」

「もう終わっちゃったよーん」

「あははは、そういうことです」


 集った冒険者や村の大人たちから、驚きと武勇を称える歓声が上がった。

 しかし、ガイだけは涙を堪え四人の頬を引っ叩いた。


「え?」

「な、なにすんだよ、おっちゃん!」

「い、痛い!」


 歓声を受け、自慢げな笑みを浮かべていた四人の動きが止まった。

 しかし、ナミラだけは頬から伝わる気持ちを察し、黙っていた。


「馬鹿野郎! 子どもが無茶するんじゃねぇ! アニ、お前は女の子だろうが! 危ないことはパパに任せろ! もしお前になにかあったら、俺は、俺は……」


 ついに我慢できなくなった涙が零れ、ガイはアニたち四人を太い腕で抱きしめた。


「……ごめんなさい」


 アニの目からも涙が伝わり、ダン・デル・ナミラも小さく謝罪した。


「でも……よくやったな。四年前の仕返しができたじゃねぇか」


 四人を解放したガイは乱暴に頭を撫で、改めてその功績を褒めた。


 そのとき、村の中央から凄まじい勢いで走ってくる男がいた。


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