土星の輪の消失
雨世界
1 本当にどうもありがとう。
土星の輪の消失
プロローグ
……消えちゃったね。
本編
本当にどうもありがとう。
土星の輪が消えて無くなる、と言う見出しの書かれた校内新聞の貼ってある掲示板の前で、荻野真里亞はその足を少しの間、止めていた。
……土星の輪が消える。
その校内新聞の記事の横には確かに輪のなくなった土星の絵が(その惑星が土星であるのかどうなのか、判断はつかなかったけど)手書きの上手な絵で描かれていた。
その記事はもちろん、嘘の記事だった。
そんな大事件が本当に起こっていればテレビやネットの記事で話題になるはずだったのだけど、そんなニュースはどの番組でも放送されていなかった。
なぜそんな嘘の記事を書くのか? その理由もよくわからない新聞部のでっち上げのニュース。
そんな嘘の記事を真剣になって読んだりする生徒は誰もいない。(ただ、新聞部のん嘘のニュース自体は記事の文章も面白いし、絵も上手だったりして人気があった)
そんな嘘のニュースをでっち上げて校内新聞の一面に掲載するのが、このめぐるの通っている東山高校新聞部の代々受け継がれてきた伝統だった。(昔の時代はUMA(ユーマ)の記事やムーやアトランチィスの記事を書いていたし、少し前は『月の落下』や『彗星が地球に追突する』という嘘の記事を書いていた)
真里亞ももちろん真剣になってその記事を読んでいるわけではなかった。
でもなぜかその土星の輪が消えて無くなる、……つまり『土星の輪が消失する』と言う内容の記事は真里亞の心を強く引きつけた。
……どうして私はこんなにもこの嘘の記事のないように惹かれているのだろう? その答えを自分の中から探し出そうとして、真里亞はさっきからずっと、この校内新聞の貼ってある掲示板の前で(大切なお昼休みの時間を消費しながら)立ち止まっているのだった。
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