2-1 北の都市へ
この国"フェルデリア"は大きく4つの都市で構成されている。
北の都市"ノーテル"
東の都市"オストル"
西の都市"ヴェレル"
そして中央都市"ミドラント"
名前の通り、ミドラントを中心として北、東、西の方面に都市が存在し、周辺を統治している。
年中気候は穏やかで寒暖差があまり無く、広大な草原と森林、山川。生き物が暮らすのにこれ程までに適している場所はそうそうないだろう。草原を横切る街道を進めば、小動物や旅芸人一座や行商人等、ありとあらゆるものに出会う事ができ、またその分、別れも訪れる。
この広大な草原はミドラントの周囲を取り囲む様に広がっていて、それぞれ各都市までの街道が整備されている。街道沿いには集落や宿が点在しており、国内での移動、小旅行をサポートは万全だ。
この旅をする中で、私的な小旅行をするのならどれ程楽しいだろう。と考える程だった。
…とは言え、危険は何処にでも存在するものだ。
各都市が管轄している領内を出れば、整備が行き届いていない場所。険しい渓谷地。野盗に魔物…。
如何に秩序が保たれているとは言え、危険は無くならない。力なき者は奪われる。仕方ないとは言いたくないが、これは事実だ。現に何度も襲われている。
それに、今は"明けの刻"と言う、災い等が活発化する時なのだと言う。
現教皇が新教皇に切り替わってから世界の記憶に触れる旅が終わるまで間、どうしても教皇の力が落ちる訳だ。それを狙ってなのか、魔物は凶暴性を増し、邪な心を持つ者が蠢く。
しかし明けない夜は無いと、希望はまたやってくると言う願いからこの名前は付いたらしい。
早く、皆に希望を届けたい。と
エレノアはそう言うのであった。
ーーーーー。
ミドラントを出発してから7日。
北の都市ノーテルへの道のりは、他と都市を訪れた時よりも比較的楽であった。ゴブリンやウルフに襲われたり、名も知らぬ野盗集団にしつこく狙われたりする事もなく、穏やかに、ただ美しい風景や風に紛れる麗しい香りに心打たれながら歩みを進めている。
まるで本当に、物見遊山の旅をしているようでウキウキしてしまっている自分がいた。
これは、自分だけではなかったと思いたい。
「…それで??トーヤ君」
隣からグイッと顔を覗き込まれ、少しのけぞる。
束ねている少し明るい茶色の髪を揺らしながら、不敵な笑みを浮かべ、その整った顔の女性は私に迫ってきた。
興味津々、まるで顔に書いている様に読み取れる。
しかし美形とも言える彼女から迫られるのは、少し、鼻の下が伸びてしまいそうだ…。
「昨晩は教皇様といい雰囲気をだったんじゃないの??お姉さん、どんな話をしたかとても気になるわぁ」
「教えませんよ」
語尾を上げ、上目遣いをしながら誘惑する様に相手を手駒にする。彼女の常套手段だ。
次には、"教えてくれないかしら??"と落しにかかってくるのでそうなる前にお断りをした。
「あらぁ、余程濃密な時間を過ごしたのかしら??気になるわぁ。お姉さん妬いちゃう」
お姉さんと言っているが、残念ながらこのメンバーの中で私が最年長だ。彼女の正確な年齢は伏せておくが。
彼女は"オーロラ"
旅のメンバーであり、教皇エレノアの護衛だ。
白銀の鎧を見に纏い、細身の長剣を腰に下げている。動きやすい様に改造しているのか、所々地肌や肌着が露出している。彼女のセンスかどうかは知らない。
歳下と分かっていると、何とも盛り上がらないのは私が年上好きなのか。と当初考えては見たが、考えている内に馬鹿らしくなったので止めたのはいい思い出だ…。
本当に、穏やかな時間が流れている。
もっと過酷な旅をしてきた様な気がしたが、今となっては過去の出来事と思い出の彼方へ消えてしまいそうだ。
ゆっくりと、草原の登り坂を進む。
前方にはエレノアと、オーロラの弟で同じく護衛の"エダン"が先行している。どうやら、私達の会話は聞こえていないみたいだ。
しかし私のホッとした様子を察したのか、オーロラは目を細めながら、ふーん。と意地悪そうに鼻を鳴らした。
「それじゃあ、教皇様に聞いてこようかしらねー」
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