1-2 焚き火2
「何の、夢を見ていたのですか??」
何故その様な質問をするのか分からなかった。
自分ですら、夢を見ていたのか分からないと言うのに。
だがそれをエレノアに聞くことはなかった。
「…分かりません。でも何故だか、懐かしさを感じる様な気がします」
私は焚き火を見つめながら言った。
エレノアも焚き火を見つめていた。
直接見てはいないが、横にいて、その発する言葉の感じで分かった。
「懐かしさ、ですか…」
私はエレノアの次の言葉を待った。
彼女が今、何を考えているのか分からない。
考えても見なかった。
何故私は、こんなに引き込まれているのだろうか。他人の考えなど、特に気にもしていなかったではないか。
他人の世界など、さほど…。
「貴方の心が、魂が、きっと覚えているのですね。遠い日の温もり。かけがえの無い情景を…」
私は何も言わなかった。
「たとえ記憶を無くしても、貴方の世界は貴方の中に確かにあるのですね」
私の、世界。
私の、記憶。
私にはこの国に来るまでの記憶が無かった。
記憶が無かったと言っても、名前は、
"トーヤ"
歳は28。男性。少し長めの黒髪の普通体型。
この国の言語はわからないが、話す事は出来るし、文字を読み書きする事も可能だ。
私が知っている常識はこの国でも通用する。政策や宗教は知らなかったが、ある程度理解して区別する事が出来た。生活する分には、"こう言う事なのだろう"と言った感じに読み取れたので問題はなかった。
と言った具合に、私に起こった過去の事象以外の点では、皆が受け入れてくれた事もあり特段困る事はなく、容易に溶け込む事が出来た。
もしや私はこの国の生まれか、近国の人間なのかと思い聞き込みをしてはみたが、知り合いどころか有力な情報等も全く出てはこなかった。
「私の、世界ですか…」
ここで言う私の世界とは、単純に過去の記憶を指しているのだろうが。
全く実感が湧かないものだ。
私の持っている私の世界は、この国に来てから現在に至るまででしかない。
しかしエレノアは、私の知らない私の世界を見ている様な言い方だ。彼女には一体、何が見えているのだろう。
それを聞こうとして口を開きかけ、やめた。
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