世界の果ての魔王
棚の影
0-1 いつかの日
その日も、こんな感じだった気がする。
こうやって仲間と火を囲んで他愛もないような、それでいて退屈しない時を過ごした。充実した時とまではいかないが、家族の話、恋人との惚気話、自分の夢だった事•••。普段聞いたらどうでもいいと聞く気にもならないような話は、悪い気にならない。とても自分らしくないと思うが、心まで暖まる。その表現が適切だと感じた。
そんな心暖まる心境とは裏腹に、辺りは建物の残骸、瓦礫の山、何かが焦げる臭いと油臭さが混じっていて鼻が効かないような所。偶然できた広場の真ん中に、ドラム缶が焚き火の代わりをしている。そんな場所に3人はいた。
「なんだか不思議な感じですね。夢や希望•••つい最近まで平和を謳歌していた気もするし、遠い昔のことの様にも思える」
男の1人が苦笑いしながら言った。
彼は一番年下なのにも関わらず、過ぎ去った時に憂いを感じている様な口振りだ。
彼の着ている黒いパワードスーツは、3人の中で一番傷だらけで、装甲が剥がれ損傷が激しかった。
「また、あんな日常に戻れる日が来るんですかね??」
男は私に問いかけた。
と、思った。
自虐的にただ吐き出しただけかもしれない。だが私はそれを問いとして受けるのが義務だと思った。
「すまないが、それはわからない」
私は男を見つめた後、顔を逸らしながら言った。
「大丈夫だとか。きっと戻れるとか。何の根拠もない言葉で希望を与えられる程、私は強くないんだ」
一瞬の間を置いて、男はフッと微笑した。
「前にも何回か聞きましたし、それ。いい加減ちょっと気持ち悪いですよ??」
心外だな。
気持ち悪いは言い過ぎではないだろうか。確かに責任追求から逃げているのは認めるが•••。
「ははっ。コイツは根暗でネガティヴだから仕方ねぇって」
「ホントに、これが世界を救う選ばれし者達って言うんだから笑ってしまいますよね」
小さな笑いが起こった。
若い男はけたけたと笑い、もう1人の初老で大柄な男は、"達"ってなんだよ。俺も含まれてるってのか??と少々納得がいかない様で若い男を問い詰めている。
パチパチとドラム缶の中で廃木材が音を立てている。
自分がこういった、和やかな雰囲気が心地いいと感じる様になるとは思わなかった。他人と考えを共有するというか、他人との世界を共有する事が、自分の世界を開く事が、心地良いと感じるとは思わなかった。
よくドラマとかでもあるシチュエーション。
最後の晩餐、最終決戦前夜、これが最後になるかもしれないと思うと決まって色々話し合いたくなる。
自分や、相手が、確かにここにいた。と確認したくなる。
フィクションだと思っていたが、実際に体感すると何とも不思議な気分だ。
「•••また、3人でこうやって火を囲んで話をしたいな」
2人の口論がぴたりと止んだ。
「出来れば今度は、山でキャンプしながらがいい」
2人から暫く見つめられ、急に恥ずかしくなってくる。
2人はゲラゲラ笑う事もなく、静かに微笑みながら頷いた。
「そうだな。でも最初は手っ取り早く片付けちまってからの皆で祝盃だぞ」
「平和な日常を取り戻す為に、絶対成功させましょう!!」
私も、精一杯微笑みながら、静かに頷いた•••。
ーーーーー
それから暫くして我々は、それぞれの機体に乗り込み飛び立った。
遥か海の彼方を目指し、三つの希望の光が作り出す軌跡はそれぞれの想いを乗せ、空を切り裂いていく。
•••パチン。
と、ドラム缶の中で廃木材が破裂した。
静寂を切る様に、けたたましい轟音と入り乱れる閃光が交差する。
そしてその広場は、流れ弾の直撃によって蒸発し、消滅したのだった•••。
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