第35話 魔法使い 目覚める

 その男は、目を覚ました。

 原因は分かっている。

 巨大な魔法を使った波動を感じたのだ。


 勇者召喚の魔法。あれほどまでに力を使い切るとは思わなかった。

 おかげで、そのあとずっと眠り続けてしまった。

 いったい何日たったのだろう。




 目を覚まして最初に思った。

「はて、いったい何があったのだ?」


 そこは、前線近くの基地であったはずなのだが、すっかり廃墟のようになった建物で埃だらけのベッドで寝かされていたのだ。



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「こいつら、いったいいつまで寝てんのよ!」

「強く殴りスギなのではナイデショウカ?」

「あんたも、おんなじでしょ!」


 吉岡と田中は、まだ眠り続けている。二人の頭には巨大なたんこぶができている。


「時代ゲキというものを見たのデスが、首を叩くと気絶スルっていうワザが日本にはアルのでショウか?」

「あんなのはね、作り話よ。そんなことあるわけないじゃないの」

「デハ、締め技でキゼツするのもですか?」

「あれは本当よ」


 話しながら、荷車を引いている。その荷車に吉岡と田中を乗せているのだ。

 ちなみに、この荷車はエリザベスが調達してきた。


 どうやって調達したのかは聞いていないし、質問もしていない。


「魔法で、二人を移動させることはできないのデスか?」

「さっき、石で試してみたわ。見てたでしょ?」

「あぁ・・・ああなるのデスか…」

 なにやら、巨大な岩に向かって藤間が呪文を唱えていた。

 すると、その岩はものすごい勢いで天空の彼方へ飛んで行った。


「まったくコントロールが効かないのよ。これじゃあ、使えないわね」

「やっぱりソウなんですか」


 ゴロゴロと荷車を引く藤島とエリザベス。


 すると、向こうからやってくる一団。

 遠目にもわかる紫色の集団である。



 すると、エリザベスの雰囲気が微妙に変わったことに藤島は気づいた。

 かなり、抑えており隠匿しているが微妙に漏れてくる。

 これは殺気。



 やがてその集団は、50mほど先まで来て止まった。

 50人ほどの集団の先頭には、紫色のマントを羽織ったやせぎすの人物。


 この世界に召喚した時にいた人物だ。


「お久しぶりでございます、勇者諸君。大変失礼ながら、馬鹿どもがあなたたちに非礼を働いたとのこと。伏してお詫びいたします」


 口は笑っている。でも、目は笑っていない。

 不気味な人物・・・藤島の第一印象だった。


 この人物こそが、帝国唯一の魔術師 エンデロープ。


 エリザベスたちが、陰険魔法使いと呼ぶ人物であった。

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