第7話 朝
朝・・藤島静香が目を覚めると、すでにエリザベスは起きて服(ツナギ)に着替えていた。
にっこり笑って挨拶してきた。
「オハヨうごザイます」
「あ・・おはよう・・」
気の扉の隙間から漏れてくる朝日が逆光になって、後光のようになっている。
絵画のような気品さえ感じられる。
思わず見とれる。
だが・・昨夜のエリザベスの行動。
この女性も姿のままの人物ではないのだろう。
藤島静香は、警戒しておくことにした。
侍女に朝食の準備ができたと言われ、食堂に案内された。
そこに用意されていたのは、木のさらに乗ったパン。
そして一杯の水。
それだけだった。
ちなみにパンは、とても硬かった。
吉岡が思わず聞いた。
「あの・・これだけ・・・?」
すると侍女はギロッと睨んで言った。
「白いパンを食べられるなんて、あなたたちは特別待遇なんですよ」
田中がつぶやいた。
「マジか・・・」
女性2人は静かにパンをちぎって食べている。
どうやら、これで我慢するしかないようだ。
朝食の後、部屋に案内された。
そこには机とその周りに粗末な椅子(ほぼ丸太)が並んでいる。
机の上には羊皮紙?に書かれた地図らしきもの。
そこに、昨日のラーシン将軍と何名かの男性がやって来た。
「今日は、このカルマン帝国と大陸の地理と前線の状況をヒッチ隊長に説明してもらう」
「ヒッチ隊長である。よろしく!」
敬礼してきたので、見よう見まねで敬礼する。
これまた、筋肉質の体格の大きい軍人。
「では、わしは忙しいので失礼する!」
後にはヒッチ隊長のみ残していってしまった。
後に残った、ヒッチ将軍はフン!と鼻を鳴らしてジロッとにらんだ。
「では、我が帝国の状況を説明する。ちゃんと聞くように」
なにやら、偉そうに説明を始めた。
「この地図を見ろ」
羊皮紙に書かれた大きな大陸。その右側にちょっと突き出した半島を棒で示して言った。何やら文字が書かれている。
「ここが、わがカルマン帝国である!」
「え・・・・」
「マジか・・」
吉岡と田中がつぶやく。大陸全体に対して・・・思ったより小さかった。
「今、我々がいるのはこことなる」
半島の付け根に近い部分を刺す。
「そして、これが敵となるシャイン王国の領土である」
今度は、大陸の大部分を示す線をなぞった。
面積にして・・・数十倍。
「そんなに大きさが違ってて大丈夫なのかよ・・・」
田中が言った。
「7年前までは、シャイン王国のほぼすべての領土をカルマン帝国が制圧していた。領土の大きさが問題ではない!!」
ギロッっとにらんで叫ぶ。
「じゃあ、なんで今はここだけなんだよ?」
「7年前、シャイン王国は滅亡寸前となっていた。王も王子もとらえており、ほぼ我が帝国が勝利していたのだ。ところが、シャイン王国の聖女カテリーナが異世界より勇者を召喚しおったのだ!!」
「え!?」
それには驚いた。
つまり・・・・異世界から召喚されたのは自分たちだけではなかったということだ。
「そいつが来てから・・急に卑劣な戦いをするようになったのだ。罠や待ち伏せ・不意打ちなど。それによって我が軍はここまで一時的に退去するしかなくなったのだ」
「はぁ・・」
一時的ね・・・
「しかも、拳闘士隊が我が帝国を裏切りおって・・・そいつの元に行きやがった。やつら、見つけ次第抹殺してやる!」
青筋を立てて怒っている。
「そこで、そなたたちはこれより前線に行ってもらい、シャイン王国の軍勢をけちらしてもらう」
「「「はぁ!!??」」」
「当然、勇者なのだからそれくらいのことはできるであろう」
「いやいや・・・無理無理!」
まるで、当たり前のように言われて大慌てになる吉岡。
「俺たち、平和な国から来たので武器とか持ったこともないし。戦うことなんてできないです!!」
「そんなはずは無かろう!勇者として召喚されたのだ!!戦ってもらわないと何のために召喚したかわからんではないか!!!」
物凄い大声で恫喝されて、吉岡は真っ青な顔で黙ってしまった。
よく見ると膝が震えている。
このままだと、漏らしてしまうかもしれない。
その時、田中がにやにや笑いながら言った。
「申し訳ないが、我々は武器を持って戦うことはできないのですが、科学・・いえ、錬金術があります!」
「はぁ?錬金術?おとぎ話の話か?」
「いえ、本当なのです。時間をいただければ、その錬金術によって帝国に強力な武器を提供いたしましょう。それがあればどんな敵であろうと倒すことができます!!」
「・・・ほお・・言ったな」
「はい、お任せください」
「では一週間やる!それまでに武器を作って見せるがいい!!」
「アノ・・・・」
その時、地図を見ていたエリザベスさんがおずおずと手を挙げて言った。
「こちらのホウにはどんなクニがあるのテデスか?」
地図の左側。カルマン帝国と逆の方を指し示す。
「そっちは、豪族などの小国がより固まっているだけだ」
「これらのクニと帝国はドウメイとかは結んでナイのデスか?」
「偉大なる帝国が、わざわざそんな小国たちと対等な同盟など結ぶものか!」
「そうデスか・・しばらく、このチズをお借りシテモいいデスか?」
「フン!構わんよ」
「あリガとうゴザイます」
ヒッチ隊長はずかずかと大股で歩いて出口に向かった。
「では、一週間後だぞ!忘れるなよ!」
「お任せください!」
田中が答える。
フン!と言ってヒッチ隊長は出て行った。
「それで・・火薬を作るんだっけ・・・?」
藤島さんが田中に言った。
「そうだ。この世界には火薬がない。火薬があれば世界制覇も夢じゃないさ」
田中が偉そうに胸を張って、にやにやと笑う。
「で・・・?材料を集めるめどは立ったのかしら?」
「それが、課題だ」
「はぁ・・・?」
つまり、材料のめどがないのに大見得を切ったらしい。
藤島さんは田中を氷のような冷たい目で見た。
”馬鹿じゃないの・・・いや・・・こいつ・・馬鹿だ・・・”
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