十話 圧倒
「そういえば、まだお前の名前を決めてなかったな」
サーペントドラゴンの背中に乗って移動を始めて少し。
サヤが思い出したかのように、サーペントドラゴンへと話しかける。
『私の名前ですか? ……そういえば、あの雑魚も名前を持っていましたね。まさか、サヤ様がお付けになったのですか?』
サーペントドラゴンが後ろを駆けるミノに目をやりながらサヤに質問する。
それを聞き、ミノが『誰が雑魚だこの野郎!』と悪態を吐くが、サーペントドラゴンは『ふんっ』と鼻で笑って一瞥するのみだった。
「そうだ。今後同じ種族を配下に加えるかもしれない、そうなると名前はあったほうが良い。……そうだな、よし。お前は今日から〝ペドラ〟だ」
『ペドラ……! なかなかに強そうな響きです! ありがとうございます、サヤ様!』
サヤの名付けに、ミノ同様にサーペントドラゴン――ペドラは歓喜する。
やり取りを聞いていたシグレが【また安直な名付けを……】と溜め息を吐くのだが……ペドラ自身が気に入ったのであれば問題はないのである。
「さて、この先にはどんなモンスターが待っているか……楽しみだ」
分岐路へと戻ってきたところで、もう一方の道を見ながらサヤが言葉を漏らす。
それにペドラが質問を投げかける。
『サヤ様は本当に戦いが好きなのですね。理由をお聞きしても?』
「我の目的は強くなること。そして迷宮を出て、外の世界で生きてみたいと思っている」
『外の世界……ですか? なんと、そんな目的があったとは……私は今まで外の世界に出ようなんて考えたこともなかったです』
やはり、迷宮のモンスターは迷宮の外に出るという発想を持っていないようだ。
だが、サヤの目標はペドラにとっても魅力的だったようだ。
その証拠に、『私も外の世界がどんな場所か気になります! ぜひお供させてください!』とワクワクした様子で応える。
「ああ、ともに外の世界を目指そう。外の世界で生き残るために、まずは強くなり配下を増やさなければ」
『かしこまりました! それでは進みましょう!』
サヤに応え、ペドラはグングンともう一方の道へと進んで行く。
◆
「お前たちに問う、我の配下に加わらないか?」
ペドラの頭上に乗り、サヤが問う。
道を進むこと少し、サヤたちの前にモンスターが現れた。
八体のゴブリンどもだ。
だが、ただのゴブリンではない。
その証拠に、剣と鎧を装備した個体が四体、杖とローブを装備した個体が二体、それに弓と軽鎧を装備した個体が二体だ。
それぞれ、ゴブリンの変種異種である〝ゴブリン・セイバー〟に〝ゴブリン・メイジ〟、それと〝ゴブリン・アーチャー〟となっている。
どうやら変異種同士で群れを形成しているようだ。
『グギャッ! 他種族の言っていることがわかる!? いや、それよりもどうして脆弱なスケルトンがサーペントドラゴンにミノタウロスを従えているのだ!?』
やはり言葉が通じることと、スケルトンが中級のモンスターを従えていることに驚愕した様子を見せる。
サヤとして、この反応にも飽き飽きしてきたところだが……シグレに配下を増やすには必要なことだと言われては従わざるを得ないのである。
『おい、驚いている場合じゃないぞ!』
『そうだ! ヤツらは間違いなく強い、従わないとまずんじゃ……』
『グギャッ! スケルトンなんかに従ってたまるか!』
何やらゴブリンどもが言い争いを始めた。
脆弱と言われたこと、そして話が進まないことにサヤは若干のイラつきを覚えた。
それを感じ取ったのだろう、ペドラとミノが小さな声で『ひっ……』と悲鳴を漏らす。
『ええい! 俺はスケルトンなんかに従うのは反対だ! 喰らえ、《ファイアーボール》!』
言い争いを続ける中、ゴブリン・メイジのうちの一体が下級魔法スキルである《ファイアーボール》を放ってきた。
「そうこなくてはな、《ファイアーバレット》……ッ」
敵の攻撃に、サヤは愉快そうな声を漏らしながら、自分も《ファイアーバレット》を発動する。
衝突する火球と火弾――威力は《ファイアーバレット》の方が上だ。
火球を打ち消し、そのままゴブリンどもに襲いかかる。
『散開!』
こうなったらやるしかあるまい!
リーダー格と思われるゴブリン・セイバーが声を上げると、《ファイアーバレット》を回避するため散り散りになる。
なかなかの練度だ。
散開したかと思えば、それぞれすぐに臨戦体制に入る。
『グギャッ! これでも喰らいなぁ!』
一番に体勢を立て直したゴブリン・アーチャーが弓を番え、矢を射ってくる。
スケルトンであるサヤに弓は効きにくいが、それでも当たりどころが悪ければダメージになる。
『『サヤ様……ッ!』』
ペドラとミノが声を上げる。
だがその時既に、サヤは妖刀形態へと変身したシグレを手に抜刀の構えに移っていた。
「効かぬ」
そう言って、静かにシグレを抜刀する。
闇色の閃きが走ったかと思えば、その刹那――矢は先端から真っ二つに割れ、あらぬ方向へと飛んでいった。
『『『グギャ……ッ!?』』』
ゴブリンどもが揃って声を上げる。
人が武器に変わった――かと思えば、それを手にしたスケルトンが、高速で飛来する矢を空中で叩き切った……。
信じられない光景に、もはや言葉を口にすることすらできないのだ。
『すげー! さすがサヤ様だ!』
『普通、飛んでくる矢を刀で切るとかできひんやん!』
ミノとペドラが興奮した声を上げる。
ペドラに至っては、興奮のあまり自分の口調すらも忘れてしまっている。
【《ファイアーボール》を切ってしまった時も驚いたが……まさかここまでとは……】
さすがにここまでやるとは想像してもみなかった。
シグレも驚愕を露わにする。
それと同時に、武器として、ここまでの使い手に拾われたことを誇りに思うのだった。
「今度はこっちの番だな……。やれ、ペドラ」
『かしこまりした、サヤ様……!』
驚きのあまり動けずにいるゴブリンども見据え、サヤは満足そうに頷くと、ペドラに指示を出す。
サヤに命令されたことが嬉しかったようだ。
ペドラは弾んだ声で応えると、ゴブリンども目掛けて硬い鱗で覆われた尻尾をなぎ払った。
『『『ギィヤァァァァァァァァ――――ッッ!?』』』
凄まじいスピードのテールアタックに為す術もなく、ゴブリンどもは揃って壁に叩きつけられる。
『グフッ……こ、降参です、強き者よ……』
『か、勝てるわけがない……!』
『貴方様に忠誠を誓います!』
壁に叩きつけられて、血反吐を吐きながら、ゴブリンどもが口々に降参……そして忠誠の意を口にするのだった。
『お、俺の出番……』
ミノがしょげた声を漏らす。
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