第199話 巫女温泉
今年の冬は平年並み、と言ったところだろうか?
「てか、平年並みと例年並み、どう違うんだっけ?」
なんてどうでもいいことを考えながらしんしんと降る雪を眺めていた。
「……こういうとき、冬眠できないって辛いな……」
雪が降ったらじっと堪えるしかない。皆も家の中でじっと堪えていることだろう。オ○ロとかジェンガでも教えたろか?
なんてことを考えていたらヤトアが剣を振りながらやってきた。なにしてんの?
「修業だ」
「そ、そうか。まあ、風邪引かないていどにガンバレ」
雪を掻き分けながら去っていく修業バカ。もう子持ちなんだから家で大人しくしてろよ。
オレも暇なので雪かきでもすることにした。
橇を牽き、雪を詰め込んで氷室前に山積みとしていく。ミディアが地下深くまで掘ったみたいで、ちょっとした広さになっているそうだ。
オレの体では入れないので話でしかわからんが、ちゃんと煉瓦と支え棒で補強しているようで、上でオレらが歩いても大丈夫なそうだ。
「ちょっと積みすぎたな」
暇すぎで完全に山になっちゃってるよ。これは、あれだ。かまくらを作れとの天啓だ。
ナイフで掘り進め、謎触手で叩いて固める。
「うむ。いい感じにできた」
穴の前に雪だるまを二つ作ってかまくらに入る。うん。情緒があってよろしい。
ぼんやりしんしんと降る雪を眺めていたらギギや巫女たちがやってきた。
「レオガルド様、かまくらですか?」
そう言えば、ギギにも作ってみせたっけな。あの頃はなにもなくてかまくらに入ってただけだったな~。
「火鉢を持ってきてゴノ団子を焼いて食べよう」
餅でも焼きたいところだが、レオノールではゴノの芋を混ぜて焼いたものにチーズを乗せて食うのが冬の名物になっている。
オレの味覚では感じ取れなかったが、ギギやゼルム族には人気だ。夏なら蜂蜜をかけて食うのも美味いらしい。
ゴゴール族の巫女は干し肉を炙って食べ、ブブル(山葡萄)の酒を温めて飲んでいる。
「今年の雪は静かに降りますね」
「そうだな。今年はそこそこ積もりそうだ」
まあ、積もっても二、三メートルってところか? このくらいならゼルム族なら移動はできる。
「こういう寒い日は温泉に入りたいな」
そう言えば、長いこと温泉にいってないな~。またいったら鎧竜がいたりして。
卵から孵した鎧竜は熊くらいにまで育ったが、まだ鱗を利用できるほど育ってない。成竜がいてくれるなら狩っておきたい。鎧竜の鱗はなにかと役に立つんでな。
「温泉、いいですね! 冬は水風呂できなくて体が痒かったんです!」
ゼルム族は毛が短いが手入れをサボると虫が集るようで、サウナ、水風呂、焚き火の三連コンボが日常になっているが、冬は何日か一回になっているそうだ。
「あそこを冬の間の避寒地とするか」
まずはオレだけでいき、モンスターがいないかを確かめる。
「お、鎧竜、発見」
鎧竜も冬を越えるために温泉に浸かりにきているんだろうか? 四匹もいたよ。
一匹だけ狩って食い、鱗や骨は温泉に放り込む。いい感じに肉が取れるはずだ。よく知らんけど。
家が建てられるように地面を均し、仮住まいとして岩を集めて壁をコの字に作った。
近くから樹を倒してきて枝葉を払い、岩壁に乗せて屋根とした。
「獣のオレじゃこれが精一杯だな」
薪用の樹も伐ってきて重ねて置いておく。温泉熱で乾燥してくれるかな?
まずはゼルム族の職人を十人ばかり橇で連れてきて、寝泊まりできる建物を造らせた。
「ヤトア、ゴード、ロズル。見張りを頼むぞ」
護衛に連れてきた弟子たちに見張りを頼み、オレは狩りに出かけた。
あ、ゴードは元ミクニール氏族。ロズって名前だったが、ゴゴールのロズルと名前が被るからロズからゴードに改名させました。
猪を一匹狩ってきたらロズルに捌いてもらい、保存食としてもらった。
徐々に建物と食料が増えてきたら人間やゴゴールの職人も連れてきて急ピッチで避寒地を整備させた。
オレは温泉から溝を掘り、石を並べて湯船を作った。
二十日くらいで避寒地温泉化計画が完成。橇で巫女たちを連れきた。
「レオガルド様、気持ちいいです!」
ゼルム族の巫女からは概ね好評だったが、ゴゴール族の巫女はサウナのほうがいいみたいだ。
なのでゴゴール族の巫女たちにはマイノカに残ってもらい、ゼルム族を中心に温泉に連れてきた。
「ここの名前を考えんとな」
温泉ってのも味気ない。○○温泉とか名づけよう。
「巫女温泉と名づけるか」
最初に利用したのが巫女だし、何百年後かに観光地になったときに客を呼びやすいだろう。
冬の間、オレはシャトルバスと化してゼルム族を巫女温泉に連れてきてやり、温泉文化を馴染ませた。
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