第174話 移住者
マルジェムとの会談が終わったらギギとともにコルモアの町へと駆けた。
「マイノカを留守にしていいんでしょうか?」
「大丈夫だよ。今はオレの臭いが強いからか」
樹々にオレの臭いをマーキングしたり、雷を放って呪霊をバラ撒いた。これでよってくるのはSSランクのモンスターくらいなもんだろう。
ちなみに、レブたちにはレオノール国の見回りに出かけてもらってます。縄張りの主張はこまめにやっておかないとならないからな。
身体能力が向上したからコルモアまで一時間とかからないが、その速度にギギが堪えられないので体感で七十キロで駆けてたら夕方には着いてしまった。
「ギギ、大丈夫か?」
「は、はい。久しぶりだったから緊張はしましたが」
そうだな。ギギを背に乗せて駆けるなどいつ振りだろう? 昔はよく背に乗せ駆けてたのにな。なんか寂しいよ。
「レオガルド様。フジョーは解決したようですね」
忙しいだろうに、オレがくると毎回やってきてくれるセオルと嫁さん。いや、今日は子供も連れてきていた。
「ああ。なんとかな。ただ、バリュードがまた出てきてしまったのが面倒なところだ」
「そうですか。大陸の奥は厳しいようですな」
軽く現状を語り合い、ギギには嫁さんと子供たちの相手をお願いし、闘技場のことを話し合った。
「闘技場ですか。ゼルム族を纏めるのに必要なものなのですか?」
「人間なら金や名誉を与えればいいが、金が必要ないところで生きていた者には名誉を重んじるんだよ。同族や他種族と争わなくなった今、その思いを別な方向にぶつけなくちゃならない。お前もこれからを考えろ。生活が安定してきたら人間も悪さを始める。競争や賭けを作って不満を逸らせろよ」
「競争に賭け、ですか」
「貨幣はまだ先になるだろうが、食い物や酒を景品としろ。今年の秋、オレ主宰の展覧試合をやるからセオルも家族を連れてマイノカにこい。今からあとを任せるヤツを育てておけよ」
セオルにもマイノカを見せておきたい。人間だけのところでは他の種族のことも理解できないだろうからな。
「わかりました。秋に向けて用意していきます」
「ああ。頼むよ」
闘技場の建設に携わったことがある者や元拳闘士だったヤツらを集めてもらい、人間の闘技場がどんなものかを聞かせてもらった。
その中から職人を五人。闘技場で働いていた者四人。拳闘士だった者を三人をマイノカに連れていくことにした。
あと、労働力としてマイノカに移ってもいいと言う者を五十名も連れていく。
「こんなに人が増えると食料が足りなくなりますね」
「そうか。食料のことがあったな」
蓄えはあるだろうが、いっきに六十二人も増えたら備蓄計画も変わってくるか。
「しばらくはコルモアから食料を運ぶとするか。漁船も増えて魚も結構獲れてるそうだからな」
オレなら往復でも一時間くらい。エサ探しのついででも苦にはならん輸送だ。
道もいいし、移住する者らの調子もいいので三日くらいでマイノカに到着。まずはゼルに会わせて挨拶させ、歓迎の宴を開いてやる。
コルモアで肉を食うことは少ないので、大量に出された肉に移住者たちは喜んでいる。たくさん食ってたくさん働いてもらうぞ。
と言っても、まずは住む場所を用意しなくちゃならない。
まずは移住者たちに自分らが住む家を造らせ、食事はゼルム族の女たちにお願いした。
「レオ。なにしてるの?」
森を拓いてたらミディアとライザーが帰ってきた。
「ここら一帯を均して闘技場とするんだよ。悪いが手伝ってくれ」
ミディアは穴を掘るのが得意なので、根を掘り起こしてもらった。
楽しそうに掘り起こしているので、とりあえずミディアに任せてライザーを連れて農業村に向かった。
「リドリル。久しいな。元気にやっているか?」
こいつとも十二年の付き合いになるか。なのに、あの頃からまったく変わってないな。
「はい。レオガルド様のお陰で安全に暮らせております。娘はちゃんとお仕えしてますか?」
「ああ。ライザーには助けてられてるよ。ところで、なんだか人が増えてないか?」
人間の移り住まわせたが、ゴゴール族まで住みついてないか?
「はい。ゴゴール族の一部が移住してきました」
「問題があるときは遠慮なく言えよ」
「はい。レブ様とチェルシー様が様子を見にきてくださるので問題なくやれております」
「そうか。すまないが、六十人分の食料をマイノカに運んでくれ。もし、無理なら回せるだけでいいぞ。コルモアからも運ぶからな」
「いえ、六十人分くらい問題ありません。少しずつ畑を広げられてるので」
それはなにより。ここがレオノール国の食料庫だからな。
とりあえず、芋と豆、あとよくわからん野菜を籠いっぱいに詰め込んでマイノカへと戻った。
「ちょっとの間に随分と拓けたな」
どんだけ穴堀名犬なんだよ。
掘り起こした根はオレが片付け、倒した樹は使うので端に寄せておく。
「まずは競争トラックを造るぞ」
移住者たちの家もできたので、簡単な計画を説明して闘技場建設を開始した。
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