第82話 守人(ガーディ)

 一応、ギギや巫女たちを集め、ザザを霊司教として獣神教の纏め役とすることを伝えた。


「どんなことするんです?」


「ギギ様を頂点にレオガルド様の教えを世に広めていきます」


 なんとも抽象的なセリフだが、宗教なんてそんなもの。ザザの考えを支持して、不本意なことは調整していけばいいさ。


「決してレオガルド様を貶めることはいたしません。ただ、霊力を持つ者も保護していこうと思います」


「わかりました。レオガルド様が決めたならわたしは従います」


 ギギが承認したことでザザは獣神教の霊司教としてやっていくことになった。


「ルゼ公爵とゼル王にも承認してもらうか」


 これは国のこと。最高権力者にも承認させておく必要があるだろう。あと、文章にして残しておく必要もあるな。


 今日の収穫が終わってからルゼと話し合い、来年から獣神教の神殿を造らせることにした。


「そうなると神殿にも力を持たせたほうがいいな」


「力、ですか? それは危険では?」


「獣神教はレオノール国の下に置き、法で縛る。つまり、レオノール国は法に従うなら宗教を認めるのだ」


 レオノール国の法に従うことで旧マイアナのヤツらに自分らの宗教を許してある。それと同じく獣神教も国の下に置くのだ。


「なるほど。だから、レオガルド様は前からゼル王を立てていたのですね」


「獣なオレが人の中で暮らすには誰かの下につかなければならないからな」


 もうひとりぼっちは嫌だし、ギギの側から離れたくはない。そのためなら頭を下げることぐらい苦でも恥でもないさ。


「レオガルド様は人よりも人らしい心をお持ちで」


「そのお陰で獣の中では暮らせなくなったがな」


 自由気ままで弱肉強食な獣の世界。人の心なんてなかったらこんな苦労をしなくてもよかっただろう。だが、捨てられないのだから人の中で暮らしていけるようにするしかないのだ。せめて、ギギが生きている間は、な。


 と、ザザが土下座みたいにオレに平伏した。


「では、わたしも人の中で生きていくためにあなた様に頭を下げます」


 それがザザの覚悟であり、裏切らないための誓いなんだろう。


「そして、この身を獣神教に捧げます」


「捧げる必要はない。お前が幸せになるための道具にすればいい。オレはオレを愛してくれる者を愛し、守るための獣神教なんだからな」


 生憎とオレは全人類を愛するほど度量はない。手に届く範囲の者しか愛せないんだよ。


「皆にも言っておく。オレのために死ぬな。オレの名で同胞を死地へと向かわすな。守るべき者を守り、愛すべき者を愛せ。獣神教は未来へ命を繋ぐ教えだ」


 ここにいる者らはレオノールの核だ。核さえしっかりしていればそう簡単に揺れることはないだろう。少なくともこいつらが生きている限りは、な。


「それと、巫女は結婚することもできることを明確しにしておけ。子は宝だ。その宝を産む女も宝だ、ただし、法を守ってこそ。守れぬ者は平等に罰を下せ」


 これは国の法ではなく、獣神教の戒律として残しておく。


「わかりました。それで、どんな力にするので?」


「巫女の守人。ガーディを創る」


 獣神教の、ではなく、巫女を守るための力とするのだ。


「男女関係なく守人ガーディにはなれるが、結婚は認めない。したいときは守人ガーディを辞めること。巫女に手を出せば守人ガーディを剥奪。罪人とする」


「それは、厳しいのでは?」


「それで脅威となる数にはならんだろうし、万が一の逃げ場所とする」


 所謂駆け込み寺だな。まあ、今のところ必要はないだろうが、レオノール国が発展していけば女子供が虐げられることも出てこよう。児童保護法が生まれるまでの繋ぎとしよう。


 そのことを教え、逃げ場所にする法も創らせておこう。


「レオガルド様は、先を見ているのですね」


「時代は移り変わる。今役に立つ法が百年後も役に立つとは限らない。そのつど変えられるならいいが、そういかないときもある。なら、最初から用意しておこうと思ったまでだ」


 元の世界のように古い法に縛られすぎて身動きできない国にはしたくない。だからと言って法をコロコロ変える国にもしたくない。まったく難しいことだぜ。


「とは言え、まず巫女の教育をしっかりしておかないとダメだろうな。自戒自立慈愛を持たせる」


 これは理念か? あえて法にするのではなく自らの決まりとさせよう。


「巫女教育はギギがやれ。難しく考えることはない。お前が見本となれば他の巫女も真似るだろうからな」


 ギギは結構器用で臨機応変に動ける。力もあり戦える術もある。巫女たちにも教えているから自戒自立慈愛がなんなのかを覚えさせていけばいいさ。


守人ガーディはオレが選出して教育する」


 まずは、騎士ワルキューレから落ちたヤツとゴゴール族から選び出すとしよう。


 守人ガーディを選ぶと伝えると、思った通りに集まった。


 ただ、結婚ができないことや巫女に手を出すとどうなるか教えると、三十人ばかりになってしまった。


 と言うか、まさか半数以上が女なのは驚いた。どうなってんだ?


「いいのだな?」


 短く問い、立ち去る時間を与えた。


「よし。それをお前たちの覚悟と受け取る。今このときよりお前たちは守人ガーディだ。恥じる生き方をすればオレが許さん」


 騎士ワルキューレと同じく走り込みをさせた。

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