第75話 騎士《ワルキューレ》

 力で従えさせる。


 それはそれで有効ではあるが、ルゼ体制でやっていくならそれだけでは足りない。地位と名誉も必要だ。


 ……女はそれぞれの力でゲットしやがれ、だ……。


「まずは名誉だな」


 どの種族の男に共通するのは強い男は尊敬され、モテると言うこと。突くならそこだろう。


「ルゼの名で戦士を集めろ。オレが鍛えて騎士ワルキューレにする」


「ワ、ワルキューレ、ですか?」


 半人半馬に騎士とは? とかは言わないで。騎士と書いてワルキューレと読む、的なもの。察してください。


「ああ。男はオレが受け持つからルゼは女たちを纏めろ。あと、護衛として女の騎士も選び出せ。お前の個人戦力にするんだ」 


 ルゼが動きやすくするために反発する男どもを離す。女は女に纏めさせるのがいいはずだ。


「すみません。レオガルド様ばかりに厄介なことを押しつけてしまって……」


「これはオレのためにやっていることだ、気にするな」


 ギギがいるのでオレのためと言っておく。下手に口にするとギギの重荷になるからな。


「すべてを自分でやろうとするな。できる者を見極めて任せろ。少しずつ信頼を勝ち取っていけば味方は自然と増えるものだ」


 ルゼは賢いが、基礎となる知識が圧倒的に少なすぎる。なら、コミュニケーション能力を鍛えて従わせるしかない。こいつにはそれが飛び抜けてる。オレや周りがサポートすれば統治できるはずだ。


「ギギ。獣神の大巫女として支えてやってくれ」


「はい。わかりました」


「巫女たちも頼むぞ」


 ギギの世話役として種族ごとに三人連れてきた。巫女も巫女で他種族に寛容にさせなくちゃならないからな。


「はい。わかりました」


「レブもついててやれな」


 なんかいつの間にかチェルシーはオレの眷属的な扱いになっている。代わりにはなってくれるはずだ。


「わかった!」


「ガウ!」


 レブと同調してるのか、チェルシーのヤツ、言葉を理解している節がある。そのうちしゃべり出すんじゃないだろうな?


 長老たちにも協力するよう言いつけ、氏族の中で勇者扱いされている男たちを集めさせた。


 集まった野郎どもは、約六十人。ミナレアの人口から考えたら極一部って感じだな。


 ……受け入れられてないいい証拠だな……。


 まあ、いい。信頼や信用は一朝一夕にはいかないもの。これだけ集まっただけマシだろうよ。


「強制はしない。ただ、お前らの意地をオレに見せろ」


 ついてこいとだけ言って、男たちがついてこれる速度で走り出した。


 ゼルム族が一日で走れる距離は二十キロ弱。道がよければもっと走れはするが、道なき道を走るなら二十キロが精々だろうよ。


 この周辺はよくわからないが、ゼルム族が走る速度ならなにがどこにあるか探ることは苦ではない。いくつかの水場を見つけ、休める場所を二ヶ所見つけられた。


 意地を見せろと言ったが、根性論は嫌いなので、水分補給はするようにさせながら二十キロくらいを走らせる。


 さすがに脱落者はいないか。


「よし。帰るぞ」


 一時間くらい休憩させたらミナレアへと戻った。


 夕暮れどきに到着し、明日も集まれと残して男たちを解散させた。


「ギギ。マイノカにいってくる」


「はい。お気をつけて」


 オレ専用の荷車をつけてマイノカへと走った。


 途中、ミドールを狩って腹を満たし、夜にマイノカへと到着した。


「食料、塩、積めるだけ積んでくれ」


 食料を運ぶことは伝えてあるので、すぐに積込が開始された。


「あちらはどうだ?」


 ゼルもきてミナレアの様子を尋ねてきた。


「突っかかってはこないが、反発する者はそれなりにいるな。まあ、騎士ワルキューレ計画で去勢してやるさ」


 ちなみに、ゼルム族は重罪を犯すと罰として去勢をやったりするらしい。おっかねー種族だぜ。


「こちらでも騎士ワルキューレを作ったほうがいいだろうか?」


「ゼルは国を防衛する軍隊を優先させろ。最大の敵は海の向こうからくるヤツらだ」


 陸側は騎士団ワルキューレに当たらせる。人間に大森林は酷すぎるからな。


「わかった。そうしよう」


「お前は力強い王でいろ。知恵はオレが補ってやるから」


 なんだかんだと長い付き合いだし、気にいってもいる。支えてやるくらいはしてやるさ。


「ああ、頼りにしている」


 謎触手でゼルの背中を叩いてやり、ミナレアへと走った。


 また途中でミドールで腹を満たし、真夜中に到着。少し仮眠して昨日あつまらせた広場へと向かった。


 昨日集まった者が全員集まったかはわからないが、なんか増えている感じがする。なにがあった?


「今日も強制はしない。オレにお前らの意地を見せろ」


 そう言って走り出した。


 それを四日ほど続けると、一人の男がこのことの意味を訊いてきた。


「弱い男を振り落としているだけだ」


 根性論は嫌いなので、やっている意味を教えた。


「毎日言っているようにお前らの意地を見ている。負けないと言う意地をだ。見せられないなら止めてもいいぞ。責めはしない」


 根性論は嫌いだが、名誉と誇りを大事にしているヤツらなら根性論を刺激してやるのは有効だ。


 オレの言葉に火がついたようで、次の日から参加する人数が増えていた。


 だが、それに構わずいつものセリフを吐いて走らせた。


 走ることに慣れてきたら距離を伸ばし、道順を変え、徐々に険しくなっていく。


 男たちに火を点けたとは言え、やり続けると言うのは大変だ。脱落する者は出てくる。


 それでも六十日くらい続けたが、六十人から脱落者が出ることはなくなった。ふるい落としはこのくらいか。


「よくやりとげた。お前らの意地、オレが見届けた」


 いつもの朝、いつものセリフ以外のことを口にしたら男たちは驚いたが、すぐに誇らしい顔になった。


「今日からお前らを騎士ワルキューレとする。そして、これからは誇りを見せてもらう」


 まだ、騎士ワルキューレの道は始まったばかりだ。

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