幕間16 ジェド視点
アグレアブル公国の公都アーバンに到着して二週間が経過した。
初恋の人エルとの距離は縮められていない。
ある事件をきっかけに知り合ったジゼルという女性が邪魔をしてくるせいだ。
どうやらエルとは昔からの知り合いらしい。
彼女への畏まった態度を見るにジゼルは使用人のような存在だったのだろう。
大切な主人を守ろうと考えると不審者同然の俺に敵意を向けている意味も納得出来る。
お互いに正体を明かしていないので確かめる術はないが間違ってはいない筈だ。
「どうすれば距離を縮められるのだろうか…」
考えてみても分からない。
とりあえず話がしたくて彼女の部屋を訪れると誰も居なかった。
ジゼルと出掛けているのだろうか。
誘って欲しいと思うが古くからの付き合いである彼女達の間に割って入るのは不可能に近い。
自室に戻ると窓の外にエルが一人で出掛けて行く姿が見えた。
「今日は一人なのか」
今から追いかければ二人で出掛けられるだろうか。急いで宿屋を飛び出したがエルの姿は見当たらない。
「雨が降らないうちに見つけないといけないな」
外に出ると曇り空のせいで薄暗い町を歩いて行く。
彼女がどこに行ったかは分からない。
しらみ潰しに探すしかなかった。一時間経っても彼女は見つからない。ふと路地裏を覗き込むと奥の方に古びた教会が佇んでいた。
まさかという気持ちで路地を進む。
予想は的中した。
俺はエルを見つける事が出来たのだ。
「え…」
る、と声を掛けようとして躊躇ったのは彼女が見知らぬ男と居たからだ。
誰と話しているのだろうか。
「あの男は誰だ」
近づいて相手の顔を確認するが見た事がない人物だった。
不審者かもしれない。
エルを救出しようと彼女を見ると顔を真っ青にして、ガタガタと震えていた。いつもよりずっと小さく見える彼女に目を瞠る。
普通の不審者だったら彼女はここまで怯えたりしない。じゃあ、あの男は誰なんだ。
「エルに近づくな…」
エルと男の関係は分からない。ただ彼女を怯えさせているのは許せない。
怒りの気持ちを込めて男の真後ろに雷を落とした。
驚く二人に駆け寄り、エルの側に向かう。
「エル!」
「ジェド…」
俺を見上げたエルは一瞬安心したような顔をした。
それは俺の願望だったのかもしれない。
「エル、大丈夫か?」
「私は…」
普段の彼女だったら大丈夫じゃなくても大丈夫だと言いそうなのに。それを言えないくらい切羽詰まった状態なのだろう。
助けを求められているような気がした俺は彼女を庇うように男と対峙した瞬間、雨が降り始めた。
「君は誰だ?」
「貴方には関係ない事です」
怪訝な表情を向けてくる男を冷たく突き放した。
この男と話す事はない。一刻も早くエルをこの場から連れ出さなければ…。
「エル、逃げるぞ」
「えっ?」
俺は彼女を連れて逃げ出した。
途中、転びそうになった彼女を支える。
「すまない、早かったか?」
「い、いえ…」
触れた身体から彼女が震えているのがよく分かる。急に走ったせいで上手く走れないのだろう。後ろから先程の男が追ってくるのが見えた。
しつこい奴だ。
「……嫌だと思うが少しだけ我慢してくれ。文句なら後で聞くから」
「え、きゃっ…!」
戸惑う彼女を横抱きにして走り出した。
後で罵られても、詰られても良かった。ただ彼女を逃してやれるならそれだけで良かったのだ。
「エル、待ちなさい!頼む!待ってくれ!」
後ろから聞こえてくる声を聞きたくないと言わんばかりにエルは俺にしがみ付いた。
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