第4話:第1章④2人目の女性、そして……
生徒証を機械にかざして図書館に入っていった。1年前ならドラえもんの未来の世界のような近未来的なシステムに感動したものだが、慣れたらこんなものかという感じである。
(さて、今日は人があまりいない書庫のほうに向かうか)
そう思いながら地下に潜っていった。地上や上の階と違い、本当に静かな場所だった。まあ上と違い、座るスペースやパソコンエリアがほとんどないから、遊びに来ている奴らはあまり来ないのだろう。それとも、大人しい人間は日の当たらない地下に集まる傾向にあるのだろうか?いつの時代の革命家やねん。
僕が目的もなくなんとなく書物を眺めていたら、眠たくなってきた。本当はよくないのだが、図書館の机で寝ようと思う。派手なことはできない小心者のスリリングの味わい方である。
書庫の壁際に斑に散在している正面左右を囲まれている化粧台のような木の机は、他にある居間のちゃぶ台のような共有机と違い1人で集中して勉強するためのものなのだ。そのせいで、余計に罪悪感からのスリリングを味わうことが出来る。
まあ、スリリングなんかどうでもいい。眠たい。
僕は偽装用に書庫から借り出したなにかの本を適当に持って、机についた。机につく前は本を少し開いて読むふりをしようと思ったが、周りを囲まれているところから来るレンガの家の中の子豚のような安心感から読むふりをする気も起きなかった。
ぼくはそのまま、上から狼が煙突ごしに降りてくわけでもないのにぼんやりを眺めていた。寝ているのかなんなのかわからない霧の中に、気が利いた人ならレム睡眠かノンレム睡眠かを考える中、僕は彷徨っていた。
思考の中を彷徨っていた?
僕はなぜか、金の斧と銀の斧の童話を思い出した。2つのよい斧よりも、自分が湖に落とした斧を正直に言うと、湖の女神がいい斧もくれる内容だったと思う。
僕の前にもそういう女神様がいたら、僕はどうするのだろうか?正直に言うのか?金の斧か?銀の斧か?
そんな夢見心地な幼稚園児のような馬鹿なことを考えている僕の目の前に黒い影が黒猫のように通る。その方向を見ると、机の上にカッターが刺さっていた。
(?!?)
お手をしているところ目の前の餌を取り上げられた犬のように僕は驚いた。なぜカッターが机に刺さっているんだ?お手あげた。
すると、白猫のように白い手が後ろから横を通った。それはカッターを手に取ると、僕の後ろの闇に消えていった。
僕は後ろを見た。そこには、ショートの美女が黒スーツ姿で立っていた。白のシャツの上にも黒のネクタイを装着しており、まるで就活生みたいだった。いや、もしかしたら本当に就活生かもしれない。でも、スカートではなくパンツだった。あれ、就活の女性はパンツでもよかったっけ?わからないが、就活生だと勝手に思っておこう。大学院に行かない場合、自分も2年後は大変なのだろうか?あまり自分には想像できないので、その想像は儚く消えていった。一方で、儚さを感じる美人は目の前から消えていなかった。
「……」
彼女の唇は動いていた。おそらく何かを話しているのだろう。でも、何を?
「……」
彼女は何かを小さな声で言っていた。でも、小さすぎてわからない。いくら図書館では静かにしましょうと小学生の時から言われているとしても、もう少し声を出してほしいものである。僕は耳に手を当てて聞こえないジェスチャーをした。
「……」
今になって初めて読心術を学ばなかったことを後悔した。まさか、読心術を学ばないことを後悔する時がくるとは……
そして、もう1つ思ったことが、人の話している内容は表情で多少の想像ができるということである。謝っているのか、怒っているのか、喜んでいるのかは相手の顔から多少判断できる。カッターが危なくてゴメンね、寝るために図書館にくるな、切りつける標的発見したわ、等と言っているかは表情で多少の判断ができる。
それなのに、このスーツ女性は無表情である。ロボットか幽霊かなんなのか? ロボットのインプットされた言葉を言っているのか?幽霊が祟ってきているのか? なんなんだ?
「すみません。なんて言っているのですか?」
僕は思うのをやめて行動に出ることにした。さて、こだまは帰ってくるのだろうか?
「本は好きなのですか?」
まさかの答え。図書館では当たり前の言葉かもしれないが、まさかこの言葉とは。カッターを机に刺した無表情な女性が言う言葉がこれだとは。いわゆるひっかけ問題か?
「好きといえば好きですが」
僕がそういうと、彼女は頷いて去っていった。何に納得したんだ? こっちは何1つ納得していないぞ。なんでカッターを持っているんだ? でも、怖くて聞きに行けないぞ。
僕はすっかり目が覚めてしまった。でも、気分は夢見心地だ。
冷静に考えてみよう。今日の短い時間の中で普段起きないことが2つ起きたぞ。
1つ目は、困っている女性に会うということ。
もう1つは、困った女性に会うということ。
全く正反対な出会いだが、美女との不思議な出会いであった点は共通している。まるで1つの作品の出会い、ボーイミーツガールの物語のようなことが起きた。僕は少し別の物語を読もうと思い、本を開けた。
すると。
――
本からは不思議な光がオーロラのように飛び出した。
――
僕は目を痛めながらもその光の先を見た。そこには何者かがいた。そのものは、女神のような神秘的な声で語りかけてきた。
「汝がこの本を開き、私を封印から解いた者か。ご苦労であった。では、その恩として、お主の願いを1つだけ叶えてやる。どんな願いでも……」
――僕は本を閉じた。
――その声と姿と光は消えた。
僕はそのまま席を立ち、本を戻して図書館から出た。
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