第9話「お前を殴るくらいなら、ここら辺にある物でも壊すわ」

【器物損壊】の部屋──。

 マコたちから離れた眼鏡の男は、この部屋を訪れていた。

 後を追うように刈り上げの男が入って来たので、眼鏡の男は面倒臭そうに息を吐いた。

「なんだい、佐野君。何か用でもあるのかい?」

 眼鏡の男の不快感を露わにした言葉に、佐野と呼ばれた刈り上げの男は肩を竦めたものだ。

「おいおい、そう邪険にするなよ。それに、お前なんかに用はないさ」

「そりゃあ悪かったね。……しかし、随分とムシャクシャしているようだが……それでストレス発散代わりに俺のことを殴らないでくれよ」

 眼鏡の男がヘラヘラしながらそんなことを言うので、佐野は舌打ちを返した。

「する訳ねーだろ。お前を殴るくらいなら、ここら辺にある物でも壊すわ」

「そうかい。ハハッ!」

──その瞬間、眼鏡の男が瞳を怪しく輝かせた。しかし、佐野はそのことには気付いておらず、部屋の中を見回している。


「……ねぇ、佐野君……」

 眼鏡の男がボソリと呟いたので、眼鏡の男は顔を上げた。

「僕、良いことを思いついたんだ。……だから、一度みんなを集めてもらえないかな?」

「……良いことぉ?」

 佐野はポカーンと口を開けて呆ける。

「うん。きっと、これは助かるために大事なことなんだよ」

 眼鏡の男は怪しく口元を歪めるのであった。

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