第37話 罪

ユニアス視点


「サンダーバードの件、分かったのか?」

レイファが出ていた後、代わりに入って来た副官に私は問いかけた。

紫紺の髪に金の目をした彼は入団した当時、多くの騎士が恋をし、男と知って多くの騎士を絶望させたと語り継がれる程の美人。

私にはただ仕事のできる優秀な部下だが、今でも彼には男からラブレターが届くとか。ラブレターの送り主を彼はその視線だけで人を射殺しそうな冷ややかな目で見下して、辛辣な言葉で切り捨てているとか。

「子供のサンダーバードが密猟にあったようです。それに怒ったサンダーバードが子供を探して森の奥から出てきたようです」

「その子供は?」

「検問を張ってすぐに密猟者は捕えました。サンダーバードの子供は無事です。怪我を負っているようなので現在、騎士団の方で保護をしています。怪我が治り次第、森に放つ予定です」

「そうか」

最近、増えてきた密猟が問題になっている。魔物の毛皮は頑丈な防具になる為、冒険者に売りつけようとする者や愛玩動物として欲しがる貴族がいるらしいので、彼らに売りつけようとする者たちだ。

「陛下からも取り締まりを強めるようにと」

「分かった」

「それと」

ばんっ!

「ユニアスぅー」

イスファーンが報告を続けようとした時、扉が勢いよく空いた。入って来たのは王女殿下だ。

ノックもなしに入って来たり、あのように勢いよく扉を入って来る姿を見ると彼女はまるで庶民のようだ。礼儀作法は習っているはずだが。

それともいざという時は王女らしく振る舞えるのだろうか?普段がこのように礼儀知らずなだけで。

一部の貴族令息には人気が高いと聞いた。

天真爛漫な姿が他の貴族令嬢と違ってイイとか。男とうのは毛色の違う猫をめでて見たくなるものなので一過性のものだとは思うが。それが余計に彼女を図に乗せていると思うが。

「王女殿下、ノックもなしに入らないでいただきたい。ここは殿下の遊び場ではありません」

イスファーンは眉間に皴を寄せて王女殿下を睨みつける。彼は王女殿下が嫌いなのだ。

自分に厳しく、他人にも厳しいイスファーンは努力を怠る者を嫌う。

「ここはお城の中よ。王女の私のお家。どこにどう入ろうが私の勝手でしょう」

腰に手を当てて抗議をする王女殿下にイスファーンはこめかみを抑えてため息をついた。王女殿下の発言に頭痛がしたようだ。

王女殿下の言葉はある意味では正しい。

確かにお城は王族住む場所であり、家と言っても間違いではない。自分の家のどこをうろついても本来なら問題はないのかもしれない。けれど、城というのは王族の家であると同時に我々臣下の職場でもある。

特にここは騎士団団長である私の執務室。つまり機密事項があったり、そういう話をしている可能性もある。

王ならまだしも王女である彼女が知って良い内容など何一つないのだ。

「王女殿下、ドアをノックして入室許可をとるのはマナーの一つです。礼儀作法で習いませんでしたか?」

「習ってと思うけど、でもユニアスだからいいじゃない」

「どういう理屈だ」とイスファーンが呟いていたけど取り敢えず無視をしよう。

「ユニアスがなかなか私の所へ訪ねてくれないから。ユニアスは私の護衛よ。毎日顔を出さないとダメ」

王女殿下の言葉にユニアスの額に青筋が浮かんだ。

当然だろう。

本来なら騎士団団長が王女殿下の専属護衛になるなどあり得ない。けれど先日、王女殿下の我儘を陛下が許してしまい、私は王女殿下の専属護衛にまってしまった。一応、直属の部下をつけあるが専属護衛を任じられた以上は顔を出さないわけにはいかないので何度も様子を見には行っている。

もちろん、そんなことをしていると仕事が滞ることになる。そのしわ寄せが副官であるイスファーンに全て来ているのだ。イスファーンが怒るのも道理。

「申し訳ありません。今日は急用な案件があり、そちらの対応を優先させていただきました」

「もう、真面目ね。今回は許してあげるけど、次はちゃあんと私を優先してね」

「‥‥‥」

そんなことできるわけがない。

「王女殿下、我々は重要な話をしています。ご退出願いますか」

遂にイスファーンの堪忍袋の緒が切れた。

「えぇ、今来たばかりじゃない」

文句を言う王女殿下をイスファーンは力づくで部屋から追い出した。王女殿下の文句言う声とそれを宥める騎士の声が部屋の外から聞こえているがイスファーンは無視をして報告を続けた。

「城内にミラノ公爵令嬢の悪評が流れています。騎士団にも彼女の存在をよく思っていない者がいます。既に実害も出ています。主にミラノ公爵令嬢に対してですが」

「そうか」

だが下手に動くわけにはいかない。

彼女も騎士からの嫌がらせは想定内のはずだ。公爵令嬢の身で騎士の訓練に参加すればプライドの高い騎士が侮辱されたと思い、何かしらの行動に出ることは考えられる事態だった。それでも、騎士団に入って自分の身を本格的に守る術を身に着ける必要が彼女にはあった。その必要性にかられたのだ。

本来なら守られるだけでいい存在のはずの公女がだ。

その罪深さを王女殿下はまったく分かっていない。そのことが腹立たしい。

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