第35話 サンダーバード討伐

「何でこんな所に」

さっきまで晴天だったのに、今は暗雲が立ち込めている。

雷鳴が轟き、人間を目掛けて稲妻が落ちる。その度に新米騎士たちはパニックになり逃げまどう。

「落ち着けっ!新人どもを中心に戦闘態勢に入れっ!」

先輩騎士たちはすぐに最前列に立ち、剣を構える。

新人の騎士は先輩に守られるように囲まれていた。

「サンダーバード」

「初めて見る。人間には友好的だと聞いたけど」

私とアレックは頭上を旋回するサンダーバードを見る。

電気を纏い、自身も雷のように光っている強大な鳥は明らかにこちらに敵意を向けている。

「どう見ても握手をしに来たわけではなさそうよ。そもそもこんな森の入り口に居ること自体があり得ない」

人前に姿を現すことのないサンダーバードは森の最深部に生息している。

「そう言えば、最近は魔物の密猟が多くて騎士団が取りまりを強化するって先輩騎士たちが話しているのを聞いた」

アレックの話が本当ならこのサンダーバードが人間に襲われたかあるいは子供、番のどちらかが襲われて人間に対して恨みを持っているのかもしれない。

理由は分からないけど今はそれどころではない。

サンダーバードを倒すには戦力不足だ。

私は何とかサンダーバードを追い払おうとしている先輩騎士たちを見る。

ただでさえ、飛べない人間が空を飛ぶ魔物を討伐するのは苦戦を強いられるのにそれがサンダーバードだ。先輩騎士たちは空を飛ぶ巨大な魔物に傷一つつけることはできていない。それどことか地面抉るように放たれる稲妻を避けるので精いっぱい。

「うわぁっ」

稲妻を避けた時に態勢を崩した騎士を見逃さずサンダーバードが襲う。彼の腕をサンダーバードの鋭い爪が襲った。利き手だ。出血量も激しい。彼にこれ以上の戦闘をするのは無理だろう。ただでさえ少ない戦闘力が少しずつ、けれど確実に削られていく。

素人目にもこの戦いが不利なのこと、そう時間がかならない間にこちらの負けが決まることが分かる。

訓練ばかりで戦闘など経験したことがない新米騎士たちにも動揺が広がる。

「まずいな。パニックになりかけている」

ガヤガヤする後ろに視線を向けながらアレックは呟く。

何とかサンダーバードを地面に落とせたら良いんだけど。下手に触ると感電死するしな。

この世界にゴムなんてないし‥‥‥まてよ。ゴムはないけどゴムの木はある。確か、あの木の葉って日本にあったゴムと同じ繊維だったよね。植物に関する本は一通り目にした。日本の知識が役に立てるようにチート能力の一つで私には日本と同じ性質を持つものが一目で分かるのだ。

しかもゴムの木の葉はかなり大きかった。それこそ布団にできるぐらいには。

私は周囲に視線を巡らせる。

あった!

「アレック、サンダーバードの攻略方法を見つけた。私がサンダーバードを地面に落とす」

「どうやって?」

「ゴムの木の葉を使う」

あんなものが何の役に立つという顔をしているけど先輩騎士が次々にやられている中、説明をしている暇はない。

「サンダーバードを地面に落とすことはできるけど、すぐに飛ぼうとするはずだから」

「羽を斬って、飛ぶのを防ぐ。そこから確実に仕留める」

アレックも現状は理解できているのでそれ以上の説明は求めて来なかった。有難いことだ。

私はサンダーバードに視線を向ける。運よく、サンダーバードはゴムの木の近くを飛んでいる。私はサンダーバーに気づかれないようにゴムの木まで走る。手の届くところにある葉を斬って、掴む。

ゴムの木に登って後はこっそりと練習していた魔法。まだ、殆ど使えないけど。剣術を習いだしてから身体強化系の魔法は早めに習得しておいたのだ。

脚力を強化してサンダーバードの上までジャンプをする。

「何をしているんだっ!」

「邪魔をするな」

「死にたいのか」

とか下がガヤガヤうるさいけどジャンプした後ではもう引き返せない。引き返すこともできない。

私は感電しないようにゴムの木の葉を下にして上手くサンダーバードの上に着地した。着地できたと同時に剣でサンダーバードを突き刺し、魔法で重力をかけてサンダーバードを地面に落とす。

あたかも着地した勢いで落としているかのように見せる為に。

ゴムの木の葉はやはり電気を通さなかった。そして、サンダーバードは地面に落下。すぐに近くまで来ていたアレックがサンダーバードの羽を斬り落とす。これでもう飛べない。そして次にサンダーバードの首を斬り落とした。

サンダーバードの討伐成功だ。

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